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「これから僕たちはIDの攻略タイムで競い合う。より早いタイムでクリアできた方が冒険者として優れているのは言うまでもない」


 魔法陣の前に集合したや否や、カーリグルが口火を切った。


「通称TAティーエーと呼ばれる行為には、膨大な知識と充分な腕前が必要とされる。三流冒険者がやっても無残な結果になるだけだろう。果たして君は僕に太刀打ちできるのかどうか」


御託ごたくはいい、さっさと始めようぜ」


 俺の即答をカーリグルは鼻で笑う。


「そう負け急ぐなよLv190。例によって、冒険者の活動履歴は全てプロフィール情報に記録される。分かるかい、君がどれだけはったりをかまそうが、攻略タイムを偽ることはできないんだ。強気でいられるのも今のうちってことさ」


「威勢だけの男はどちらだったのか。ハッキリさせるには都合いい」


「君はまだ僕に勝てるつもりでいるのかい? 道化としか思えないなまったく。――それで君は何を賭ける。僕は何だっていいんだけどね」


 賭けとはいったい何のことだろう。彼の主張があまり理解できなかった。


「なあカーリグルの言っていることがよく分からないんだけど」


「何をたわけたことを。形式は違えど、これもまた対決の一種だ。勝者と敗者が生まれると言うのに、賭け物無しではえないだろう。全てははなというやつだよ」


「まあ……それなら俺も何だっていいけど」


 俺の漏らした言葉に、カーリグルはここぞとばかりに破顔はがんした。


「ならこうしよう。僕が勝ったら君のパーティーメンバーを頂く。コトハ、フィアトル、リズベット、ペルケドラ。どれも珍しいジョブだからね。きっと僕の元で大いに活躍してくれるはずさ」


「うわ、お前ロリコンかよ」


「――失敬な!!」


 間髪入れずにナルシスト男が反論する。


 ……あまりにも反応が早すぎたから、俺にはむしろ胡散うさんくさく思えた。


「将来、有望な冒険者をヘッドハンティングするのは常識だろう!! 貴重な人材をみすみすと逃す手はない、ただそれだけで僕は!!」


「ああなるほどー。ちなみに誰が一番お好みで?」


「ふっ、そんなこと……この星が生まれる前から決まっている。藍色髪あいいろがみのお嬢ちゃんだよ」


「やっぱりロリコンじゃねえか」


「ちがぁう!!」


 必死に反発するカーリグルだが、周りの視線は冷ややかだ。四人とも汚物を見るような目をしている。さしもの温厚な彼女たちですらドン引きだった。


「ねえアルト? どうしてわたしだとロリコン呼ばわりされるのかしら? 歳はそれほど幼くないと思うのだけど?」


 お嬢さまがずいと顔を近づけてきた。満面の笑みなのがいっそうおぞましい。


「いえ、言葉を誤りました。姫にはとんだ失礼なことを」


「あらいいのよ、無理しなくても。ちゃんと話は聞いてあげるから」


「……わたくしめの生まれた星では、幼児体型の女の子もロリータに分類され――」


 グシャッと身の毛もよだつ音が鳴る。見やれば、コトハさんがグーで近くのトロールをワンパンしていた。こめかみに浮き出た青筋が恐ろしい。


「ません。下らないです姫」


「何? うまく聞こえなかったのだけれど」


「いえいえ。何も何も」


 これ以上言ったら殺される。俺の口は、身の危険を感じ取って自然と閉じた。


『じーーーーーー』


 見てますよアピールをする三バカ少女たちも何やらご機嫌斜めな様子。いやお前たちは確実にロリだろ。せめて身長を二十センチは伸ばしてから文句をつけてこい。あと義務教育卒業くらいの年齢も。


「――負ける気がしないからそれでいいよ。じゃあ俺はこう指定させてもらおうかな。俺が勝ったらカーリグルの〝プライド〟を頂く。強さイコール正しさじゃないってことを認めてもらおうか」


「なに……プライドだと……?」


 カーリグルは言いよどんだ。


「何か問題でも? こっちはパーティーメンバーを賭けてるんだ。それくらいのリスクを背負ってくれないとフェアじゃない」


「まあ……いいだろう。どうせ勝つのは僕だ。君ごときじゃ僕の誇りに触れることすらできないだろうね。強さはいつだって正しいんだってことを分からせてあげるよ」


 交渉は無事に成立。俺たちは最後に一瞥いちべつを交わして魔法陣の上に乗った。転送先はID〝セレヌス山脈〟、上へ上へと目指すダンジョンだ。


 険しい崖をどのように登りつめていくかプレイングスキルが問われる。選択を誤ればMOBに邪魔をされタイムのロスは免れない。初見では数時間かかってもおかしくないダンジョンだが、俺は既に攻略法を見いだしている。


〝グリッチ〟だ。セレヌス山脈を最速で駆け上げるためにはこれしかない。

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