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「みんなお疲れ、見事な健闘ぶりだったよ。たった一時間でベヒモスを倒せるなんて――」


 三人をねぎらった瞬間、その内のひとりが俺の首元に掴みかかる。


 目尻に涙を溜めて、口元を大きく湾曲わんきょくさせ、眉根を寄せているお姫さまは、それはもう酷い顔つきだった。


「うぇええああああああああああぁぁぁ!!」


 そして聞くに堪えない奇声でわめき散らす。コトハさんは相当にご乱心のようだった。


「どうしたんだよそんなにベヒモスが怖かったのか?」


「違うわよ! よくも……よくもあんな作戦をやらせたわね! 雷を受けても炎を浴びても光線を受けてもポーションポーションポーションポーション!! わたしの頭までポーションになっちゃったらどうするのよ!!」


「わ、悪かったって、言っている意味は分からないけどコトハの脳みそはたぶんポーションよりも出来が悪い――」


 言いさした折、グキッと嫌な音が鳴った。コトハが俺の首根っこを掴んでいた。


「や、やめ、やめろおぉぉ!! 死ぬ、本気で死ぬぅぅ!!」


 ここが現実世界だったら恐らく俺の命は無いだろう。いやフィイとリズが止めてくれなければそのまま首をがれていたかもしれない。


「……エレンもありがとうな。来てくれたおかげでかなり早く倒せた」


「礼には及びませんよ。これで平原まで無事に進めそうですね」


「ああ。――それにしてもエレンはもうLv195か。この分だと一足先に三次転職できそうだな。俺たちもまだまだ頑張らないと」


「そうは言ってもアルトさんたちこそLv185とかなりのハイペースですね。こちらこそ油断はできません。すぐに追い抜かれてしまいそうですから」


「案外、来週くらいにはお互いカルテガに到着していたりしてな」


 エレンは慎ましい愛想笑いで頷いた。彼もそのビジョンは見えているらしい。


「お兄さまよ、次の目的地はそのカルテガというところなのだ?」


 ペルが言った。


「いかにも、バルドレイヤと同等の規模を持つ大都市だよ。かつて女神さまがいたとか何とかで聖都市とも呼ばれている。Lvさえ足りていればカルテガで三次転職できるはずだ」


「三次転職したらもっとつよくなれるんだよね! リズもはやく行ってみたいなあ」


「カルテガまであと二つエリアだし、そう遠くないうちに着くだろう。――早いところ200Lvになりたいところだが、エレンはどこでレベリングしてるんだ? ここら辺だとIDくらいしかなさそうだけど」


「私は黒薔薇くろばら教会にこもっていますよ。あそこのモンスターは格段に経験値が美味しいですから」


 涼しい顔で言うエレンの言葉に、思わず耳を疑った。


「黒薔薇教会って……まさかあそこはキルゾーンだろ!? 魔人も確認されてるのに入っていっても大丈夫なのかよ」


「ええ、初めは少し気後れもしていたのですが、どうも魔人なる存在はいないようです。あくまで地上の話ですけどね。あそこはB2までありますから。さすがに地下がどうなっているかまでは分かりません」


 エレンの話が本当なら、俺たちも黒薔薇教会に行ってみてもいいのかもしれない。あそこはこの付近の中でも断トツに湧きが良く、一体当たりの経験値量も多い。レベリングをすれば最高の経験値効率を叩き出せる。


 もっともHPが0になった瞬間に世界から消滅してしまう。とんでもないリスク付きだ。


「だけど魔人がこなかったというのはエレンだからかもしれないな。あいつらどうも俺にしか興味がないらしい」


「レイドボス戦でもアルトさんが終始狙われていましたからね。意図は不明ですが、あなたがキルゾーンに来るのなら話は別かと」


「だよなあ、またいきなり奇襲もあり得る。――そんなに俺を殺したけりゃあ人質を取るとか罠に嵌めるとか、色々やりようはあると思うんだ。

 奇妙なのが奴らは他の誰かに危害を加えたくなさそうなんだよ。バルドレイヤを襲撃してきたくせに、そこが矛盾していていまいちよく分からない」


「あるいはそうできない理由があるのかもしれませんね。どちらにせよ、アルトさんが今来るのは賢明ではないでしょう。まだ三次転職も済んでいないようですし、リスキーです」


「まったくもって正論だな」


 確かに早くLvを上げたい欲もあるが、それで死んでは元も子もない。今は安全にLv200を目指すことが目標だろう。


 話し合いも終わりエレンはギルドハウスへと転移していった。またレベリングに戻るのだろう。俺たちもこうしてはいられない、クエストに日課にと大忙しだ。早く次なるエリアに向かわないと。

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