171(ID:バステウス浜辺)


 景色が一転、俺たちは昼間の浜辺へと転送された。通常のMAPと違ってさんさんとおひさまの光が降り注いでおり、気温が高い。


 確かに暑いと感じる。まるで常夏とこなつのビーチにいるかのようだ。


「ついに新しいダンジョンに来たのね。それでそれで、わたしたちはどこに向かえばいいのかしら」


 コトハは既に二刀を取り出している。他の皆も相当にやる気のようだ。


「一直線に進むだけだよ。このIDも一番奥にいるボスモンスターを倒せばクリアだ。簡単だろ」


「ボスモンスターってどれのことなの? あんまりつよそうな敵はみえないよ」


 リズが奥を覗き込むように背伸びした。


「ボスモンスターの出現には一定数のMOBを倒す必要があるんだ。あとフィールドを進むごとに強いMOBが出てくるようにもなる」


「というとアレを倒すのだ? てっきりまた収穫イベントか何かだと思ったのだよ」


 フィイの指さすところ、浜辺には赤くてデカイ蟹がそこら中にいる。サイズは体高一メートル、全長三メートルほど。あれもまたれっきとしたモンスターだ。


「見ての通り、キャンサーっていう蟹型モンスターが俺たちの相手だ。ああ見えて攻撃力が高いから注意してほしい」


「つまり――今日の晩御飯はカニ鍋ってことね!」


 いったい何がつまりなのか。コトハは翻訳ほんやく不能なことを言い出した。


「最近はお肉ばっかりだったからちょうどいいわ。魚介系っていうのもなかなかいいじゃない。ここはわたしに任せて、今すぐに捕――」


「おい待て」


「うぐぅっ!!?」


 唐突に、漁網ぎょもうを取り出したおバカの首を掴む。


 ……ニワトリを絞め殺したような悲惨ひさんな声が鳴った。


「アレはモンスターだと言っているだろ。お前はアホの子なんだから余計なことをするな」


「失礼ね、これでも学力は高い方なのよ!」


「学力はいいからもう少し知力にステータスを振ってくれ……」


「――おにいちゃんおにいちゃん!」


 コトハをたしめていると、その隙にリズがとててと駆けだした。


「あのね、リズはカニさんと遊びたいなって――」


「待てと言っている」


「はわっ!!?」


 勘違いしたロリっ雁首がんくびを捉える。


「いいかリズ、ここはテーマパークじゃない。IDなんだ。残念だがカニさんとたわむれることはできないしカニ鍋を開くこともできない」


「――作戦としてはどうするのだ? 奴らけっこうな数がいるようだが」


 やっとここでフィイがまともな意見を出してくれた。


「俺が〝挑発〟を発動して一網打尽いちもうだじんでもいいけど、今はペルに任せてみよう。せっかく一緒のパーティーになってるんだし」


「ククク、我にゆだねるというのかお兄さまよ。なればここは偉大なる闇の力で征服せいふくしてみようではないか」


 ペルが一歩前へと躍り出る。


 そして本領発揮だと言わんばかりに、左目の眼帯を捨て払った。


「来たれ我が眷属けんぞくたちよ――あまねく敵勢を葬り去るのだ!」


 ペルがスキル〝サモンⅢ〟を発動。浜辺にスケルトン、ゴーレム、ガーゴイル、ゴーストアーマーなどなど多くの死霊たちが召喚された。推測で五百ほどか。


「いつ見てもすごい規模ね。これならソロでID周回も楽勝だわ」


 首根っこを掴まれたまま、コトハが言った。


「死霊召喚はネクロマンサーのお家芸だからな。三次転職すればもっと色んな種類のアンデッドを召喚できる。だけど万能ってわけでもないぞ。召喚には制限時間があったり、CTが途轍とてつもなく長かったりする」


「ネクロマンサーってすっごく楽しそう……あのねおにいちゃん、リズは見てるだけでもいい? モンスターとモンスターが戦うところを見ていたいの」


「大丈夫っていうか、むしろペルはそのつもりだろうからいいんじゃないかな。さっそく始まったみたいだぞ。俺たちはペルの活躍を見届けていよう」

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