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「よくぞ見切ったものよなぁアルトくん。俺は君だけをぶちのめせればいいんだが。大人しく斬られてはもらえんかね!」
やにさがる顔付きのまま、メルクトリが右に左にと剥き身の大剣を振り回す。
桁違いの筋力に、弾き飛ばされるコトハとパーシヴァル。いや桁違いなのは筋力だけではない。ただならぬ
バフにより150%の移動速度を得ている俺にさえ容易に追いつく身のこなし――これはまごうことなき怪物だ。
「ここは俺たちの
大剣を構えながら
「――馬鹿な」
メルクトリが新たに取り出した武器を見て思考が止まる。どうして奴は長杖を握っているのか。それはマジシャン系列にしか装備できない武器のはず。大剣を扱っていたことからも奴がファイター系列であることは
「ッ!!」
突如として、暗黒の球体〝イヴェイジョン〟が大男の手先から放たれる。
それは本来、第三次職であるノクターンにしか使えない魔法スキルだ。となるとやはりメルクトリは物理魔法の両刀――奴は俺と同じ隠しジョブだというのか。
「がっ……」
下腹部から伝わる途方もない衝撃。
球体を躱した瞬間、メルクトリが大剣を合わせてきた。横に広い薙ぎ払い攻撃だ。
生存本能はCTで使えない。……俺はここで死ぬのか。
「ええい
されど九死に一生を得る。目前にはロッドを構えたフィイの姿が。
一度限りの不死〝リンカーネイション〟によって俺は生き長らえたようだった。
「やれるものならやってみよ!
少女がかつてない激昂を見せる。マジックロッドを手に取りながら、真っ向から大男と衝突する。
監視場の空に鳴り響く、甲高い金属音。
ロッドが大剣が律動的に火花を散らす。手数は同等、されど近接でメルクトリと渡り合うのはさしもの聖職者と言えど分が悪い。
フィイはマジックロッドを構えたまま、強引に吹き飛ばされてしまった。
「求む、
HPゲージが赤く点滅していようと、それでも彼女は烈々たる
スキル〝ディヴァインヘルニクス〟天より光で編まれた
メルクトリは成すすべなく貫かれた。そして一切の身動きを封じられる。スキルによるバインド付与だ。
「くだらん裏切りを……己の犯した罪、その身をもって償うがいい!!」
パーシヴァルが剣を振るう。光の波動が、
「おにいちゃんを傷つけるなんてぜったいに許さないんだから!!」
リズがDEMを展開。たちまち召喚したイージスは辺り一帯を焦土にするBC-611。上空から落下させた
「俺たちも続け! あのクソ野郎を仕留めるんだ!!」
ウルクの叫び声によって、周りの冒険者たちは我に返ったかのように武器を取り出す。
毒矢が、火球が、銃弾が、斬撃が、雷撃が、短刀が宙を飛び交う。
バインド時間が切れた魔人はこれには
「
メルクトリが武器を長杖に持ち替えたところで、
「そうはさせません――ストップ!」
ユミムルがデバフを付与。強制的に行動を停止させるクロノジョブの十八番だ。
「罪人よ、どうかこのまま眠ってください」
エレンが駆ける。
「気が合うわね、わたしもあんたなんかに用はないわ! だからとっとと消してあげる!」
コトハが馳せる。
「至上者よ、我を
監視場に、十六枚の翼をもった大天使が招かれる。彼女の腕先より放たれた、月すら
極めつけは、
「因果応報だぜ――メルクトリ!!」
第三次職アークメイジがスキルシューティングスター。最後の最後で400万近いダメージを叩き出した奥義が、いま一度フィールドに呼び起こされる。
レイドボスと違いデバフが通じるということもあって、奴の残りHPはあっという間に100,000,000を切った。このままいけば勝てるんじゃないか。希望に胸を躍らせた時のことだった。
「やれやれ……俺に
メルクトリの満身から紫色のオーラが放たれる。〝バーサーカーⅢ〟だ。
これはマズイ今の彼には状態異常スキルが効かない。確実に形勢は一転するだろう。
奴は人間だ。MOBじみた規則的な行動を取ってくるわけでもない――ただ暴れ回るだけのあいつを止めるなんて、もはや不可能だ。
「――メルクトリさま」
どこからともなく元騎士団長の
「そろそろ頃合いかと。我らの目的を達成するためにはこの状況は
ハヌマリルは頭を下げて、
「そうさなぁ。俺とて現状に満足はしておらん。だがアレを始末せんことには引けまいて」
「しかしこれ以上は……」
「あぁいざとなれば無関係な者も全員ぶち殺す羽目になるだろうなぁ。ううむ、それは断じてあってはならんことだ。しかしなぁ……」
口調はあくまで和やかなまま、大男はハヌマリルの後頭部を掴む。そして
「あ、が……っ!」
何ら
「あの場でお前がきっちり仕事していれば、こんな大事にもならんかったんだがなぁ。わが身可愛さで逃げ出しおって。まったくボンクラが味方とはどうしようもないのぉ、ガハハハハハ!!」
メルクトリの
悪びれもせず仲間を傷つけることに、嘲笑することに、自ら企てた策を自白することに、確かな異常を前にただ
そんな俺たちを見て、元騎士団長は再度笑う。やおらハヌマリルの首根っこを掴んで背を向けた。
「――まあそんなわけだ。アルトくんをぶち殺すことはできなんだが、それはまたおいおい果たすとしよう。今後もせいぜい頑張ってくれたまえよ、魔王の討伐とやらをな!」
最後にもう一度だけ大笑すると、メルクトリは監視場を抜けていった。同時にキルゾーンの警告が消失する。
結局、奴の正体が何だったのかは掴めず仕舞い。どうして
それでも俺たちが死地を乗り切ったことは確かだ。その事実に冒険者たちは喜び、叫び、
かくして都市に平穏が舞い戻った。
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