115


 封鎖区域――そこはかつてバルドレイヤの人々が暮らしていた居住地であったという。


 しかしモンスターによって蹂躙じゅうりんされ一帯は陥落かんらく。今ではモンスターの巣窟そうくつと化してしまった。


 ……前作ではそんな感じの設定だったが、この世界も同じかは知らない。


「いかにも荒廃した街といった風なのだ。建物も床もひどいありさまで、とても見ていられない」


 フィイが悄然しょうぜんと肩を落とす。モンスターに侵略され、廃墟だらけとなった街並みはシスターである彼女からすると過度に不快感を覚えるようだ。


「本来なら街のあちこちにモンスターがポップするはずなんだ。……でもどこにも姿が見えない。これだけ静かなのはおかしい、カーラの言っていた通り、奥の方でモンスターたちが軍勢を築き上げているのかも」


「モンスターが軍を……そんなことは可能なのだろうか。元よりモンスターとは知能もない存在で意志をもって行動することはできないと思っていたのに」


「その考えは正しいよ。あいつらはシステムの一種だからな。初めに目にした敵を襲ったり、攻撃してきた敵を優先的に襲ったり、その行動には規則性がある。

 だから俺たち冒険者はその性質を利用してターゲットを集めることもできているんだが……仮に集団行動しているとなると、明らかに自我があるということだよな。それかモンスターの行動を操れる統率者がいる可能性も……」


 推測を進めている途中で異変に気が付く。


 とつぜん隣を歩いているフィイの足がぴたりと止まった。俺とつないだ小さな手にはぎゅっと強い力が込められている。


「フィイどうした?」


「アルトくん……あれを見たまえ。アルトくんの予想通り、確かにモンスターたちは何者かに統率されていたようだな。そしてそれらしき首謀者も観測できる」


 フィイが指さした先には、大広間に莫大ばくだいな勢力を成すモンスターの群れと、ひとりの男の姿が見える。アレがただ者ではないことは確かだ。


 何故なら人間を目にした瞬間襲いかかるモンスターたちが、男にはまったく反応しないのだ。


 全身に黒衣のフードをまとい、異様に長い爪を持つ人型の魔物――アレが俗に魔人と呼ばれる存在だ、ボス戦で戦った記憶がある。


「これはただ事じゃなさそうだ……あのモンスターたちを見てくれ、明らかに封鎖区域以外のMOBが混じっている。先のエリア〝黒薔薇の境界〟にいるモンスターたちだな」


「そんな……Lv180、190、200……200Lvのモンスターがいるとはしかも何百匹と……アルトくん、あんな数のモンスターを野放しにしてよいのだろうか。もしあれらが都市を襲ってきたら……」


「いったいどうなってしまうのか、それは俺も分からない。以前はLv200のダークエルフが攻めてきたようだが、今回もそのようだな。

 ダークエルフは魔法による攻撃が得意で、本来は教会にいる強MOBだ、恐らくあの魔人が連れてきたんだろう。大広間の後ろにもまだまだモンスターたちが見える。もしかすると、教会まで続いているのかも」


 そこまで話を聞いたフィイは、ごくりと唾を呑み込んだ。顔には嫌な汗がにじみ出ている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る