101


「どうしたのかねルドラくん、まさかできないとは言うまいね?」


「いや……む、無理だ……奴が相手だなんて聞いてねえぞ! か、勝てっこねえ!」


「なにを、馬鹿なことを言うな! 報酬は弾むといったであろう! 1G、1Gだぞ!!」


「ふざけんじゃねえ、負けたらこっちの経験値とアイテムが無くなるんだ。あんなチート野郎相手に決闘なんざ――二度とごめんだ!」


「あ、おいこら待て、待たんか、ルドラ!!」


 ケベルの差し止めも悲しく、ハイランダーさんはどこかへと駆け出していってしまった。


 うーん、悲しい。


「だ、そうだけど。話は終わりってことでいいか?」


「こんな……こんなはずは、馬鹿なあり得ん、あり得んだろクソが……!」


 ケベルは怒りのあまり、目玉をひんいて手をぷるぷるさせている。こりゃあ俺の声なんてとても聞こえてないな。


「きたねえぞおっさん!」


「いいからさっさと戦えよ、しらけちまうだろ?」


「腹は太いのに肝は細えんだな」


 などなど、形勢は目に見えて一転し、今度はケベルが外野になじられる立場となってしまった。当然といえば当然なので、擁護ようごしてやろうとも思わない。


 こういう人間が追い詰められた果てに、どういう行動を取るのかは想像に易い。おおよそ逆上したケベルはこの後俺に……。


「許さん……許さん、許さん許さん許さん許さん、絶対に許さんぞ!!」


 ケベルの発狂後、決闘申請を報せる画面が目前に表示される。


 決闘ルールは、先に一発入れた方が勝ちのワンショット制と、武器を剣だけに限定したザ・ワン。


 条件なんて何でもいいやと思って承諾ボタンを押した瞬間、駆け出してくる狂犬ケベル。挨拶もなしに不意打ちとはつくづくいい性格をしている。


「くたばれ――ド三流!!」


 インベントリから取り出した直剣を右手に、ケベルが斬りかかる。


 もはやスキルを使うだけの理性もないのか。憐れな男だ。


「――ッ!?」


 頭上からの振り降ろしを、盾で弾き返して対応する――対人戦における基本技術パリィだ。


 盾は武器には含まれない。防具扱いなのだが……きっとこのエセ公爵こうしゃくはそんなことも知らないのだろう。即座に盾を持った俺を見てケベルが動揺している。終わりだな。


「確かに貴様が一流だ。将来はいいやられ役にジョブチェンジできるだろう」


「お、お前、お前えぇ!」


 パリィされ、無防備になった男のどてっぱらに固めた縦拳をねじり込む。


 たかが通常攻撃、されど通常攻撃――ワンショット制により与えたダメージは9,999。


 即刻、意識を失い地を舐めるケベル。


 ふたを開けてみれば、奴との決闘はものの五秒も掛からなかった。



■システムメッセージ 冒険者ケベルからドロップアイテムを獲得しました。


 金のかなづち×5


 オリハルコンヘルム×1


 オリハルコンプレート×1


 オブシディアンクリップ×1


 フランベルジュ×1


 サーペントソード×1

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る