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「聞いたところ――アルトという冒険者は決闘の際、どんな条件もむらしい。それがたとえ自分に不利な内容であっても。さて今回もそうであってくれるとよいのだが」


 こいつ、やはり事前に下調べを済ませている。これまでの話はすべて演技で、真の目的は俺をせること。そして自分にとって最も有利な条件で戦う腹なのだろう。


 とすると恐らく俺に突きつけてくる要求は、ワンショット制かあるいは縛りプレイの――。


「……ごたくはいい。さっさと決闘申請をしてきたらどうだ。どのような内容でも俺は構わん」


「どのような、か……聞いたな皆の衆、アルトはどんな決闘でも受けて立つそうだ!」


 ケベルが勝ち誇ったかのように大声をあげる。


 それにつられて『オオオ!』と賛同する冒険者たち。この演出すらもケベルの用意したものかどうかは知らないが、なるほど、外堀りを埋める手筈てはず万端ばんたんなようだ。


「ねえアルト、大丈夫なのあえて不利な条件なんて呑んで」


 と、ここでコトハが耳打ちしてきた。不安を隠せないのか、表情がくもっている。


「大丈夫、これまでも不利な場面なんていくらでもあったろ」


「で、でも……それでもしアルトが負けちゃったら……」


「コトハ、お前はひとつ誤解をしている。――俺は決して楽観主義者じゃない。勝てる戦いじゃなければ承諾しないよ」


 コトハはまだ何か言いたげにジッと見つめていたが、やがて仕方ないと言いたげに息を吐いた。


「ほんとにもう、アルトはまったく……」って聞こえてますよーコトハさーん。俺なにかやらかしたかな。


「これはこれは、まだすら見ていないのに勝てる戦いとは面白い。対人において無敗と噂のアルトは、この日、初の敗北をきっするだろう」


 ケベルが嬉々ききとして手の内を明かした。


 その言い方からして、どうやら決闘相手が奴ではないようだ。やはり俺の見立て通り、ケベルは初めから俺とやり合うつもりで話を持ち掛け、さらに決闘専用の傭兵ようへいを雇っていたというわけか。ここまで計算高いと素直に感心する。


「ひ、卑怯者め、そうまでして勝ちたいというのか!」


 沈黙していたフィイが声を荒げた。


「ふん、何とでも言え。良いと受けて立ったのはそこの彼だ。おじけづいてやっぱりやめたいと言うのなら話は別だが……これだけの観衆の前で啖呵たんかを切った挙句あげく、逃げ出すというのは……これ以上ない恥さらしになるであろうな」


卑劣ひれつな! 初めからそう仕向けることが目的だったのだろう。許せぬ、断じて――」


 激昂げっこうするフィイの頭に手を添える。


 すると彼女はうぐぐ、とうなりつつも下がってくれた。


「俺のために怒ってくれてありがとうフィイ。だけど大丈夫だから安心してくれ。――さあケベル、切り札を用意しているのだろう。ならばさっさとそいつを招いてはどうか。そう心配せずとも俺は逃げも隠れもしない」


 俺の宣誓に合わせて、ケベルが口角を吊り上げる。欲望にまみれたいやらしい笑みだ。


「であればお望み通り見せてあげましょう。こちらがあなたの対戦相手を務める――ハイランダーのルドラさんですぞ!」


 あれ……いまルドラって言ったか? その名前どこかで聞いたことのあるような……。


「彼の対人戦績は圧倒的な百十九勝一敗。ほぼ負けなしといった間違いのない猛者もさ! バルドレイヤには数多くの冒険者が滞在しているが、彼ほどの実力者は一握りでしょうな。更にルールは武器をひとつのみに制限する〝ザ・ワン〟、もちろんここで指定する武器は剣。これであなたの弓と魔法は封じたも同然です。さあ早く構えなさい、これより生意気な新米冒険者の祝うべき敗北会の幕開けと――」


 ケベルの饒舌じょうぜつはそこで止まった。


 いよいよ現れた決闘代理役の冒険者、ルドラの様子がおかしいと気づいたのである。


「……」


 ルドラは俺をまじまじと見つめながら、真っ青な顔色で全身をみっともなく震わせている。とても有利な戦いと思い込む戦士の顔つきではない。既に戦意喪失せんしそうしつしている。


 やっぱりこいつ、アレだな。俺がバルドレイヤに来た初日にやっつけたあのハイランダーか。たとえ剣でのタイマンだとしても脅威じゃない。

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