090
「カムイだっけ、そう睨まないでくれよ。――そうだな、今からちょうど四秒後に上げてみろ。きっと魚が掛かっているはずだ」
「どうしてそんなことが分かる。やはり君はすこしきな臭い――」
「ほら三、二、一」
「くっ、くそ……!」
カムイが半ばヤケクソに竿を引く。すると、
「馬鹿な……こうも簡単にロックフィッシュが!?」
ぴちぴちと活きの良い岩魚が上がった。
「ほら言っただろ。釣りはタイミングが重要なんだ。確実にHITするコツさえつかめば、何ら難しいことはないよ」
「よもや……こんなことが……」
俺の話を聞いているのかいないのか、カムイは放心状態だった。
「な、なああんた、どうか俺にもそのコツを教えてくれ!」
「おい抜け駆けすんなよ! ここは俺が先だ!」
「いいえ私よ、あなたたちレディーファーストというものを知らないの!?」
そして波のように押し寄せる冒険者たち。意図せず釣り場が一段とやかましくなってしまった。
この必勝法は、俺が
「HIT」
四匹目を釣り上げたところで、騒ぎはますま白熱する一方だったが、もう気にしないことにした。コツを教えてくれとか言われても知らん、知らんよ俺は。
「なかなかいいペースだ。このままいくと一日で終わるかもしれない」
一時間を経過したところで獲った魚の数は二十を突破。業績〝歴戦の釣り人〟を獲得するのもそう苦じゃないかもしれない。
問題はこの数の魚をどうするかだけど……コトハとフィイって料理できるのかな。望みは薄いけど聞いてみるか。
アルト:いま釣り場に来てるんだけどさ、だいぶ魚が獲れちゃったんだ。もしよかったら今日の晩飯にしたいんだけど……二人って料理とかできる?
Toにコトハとフィイを追加して、グループチャットを試みた。そう言えばあいつらにチャットのやり方とか教えてないけど、流石にできるよな……たぶん。
コトハ:料理ならまかせて、わたしけっこう得意だから!
おそろしく早い返信を寄こしてきたのはコトハ。ああいう気性の人間は料理スキルが壊滅的なのがお約束ではないだろうか。本当に得意なのか疑ってしまう。
フィイ:われはそういった経験に乏しい。しかしアルトくんが望むとあれば、絶対に何とかする。是非とも期待してくれたまえ。
反対にフィイは苦手なようだ。てっきりお互い逆かと思っていたけど意外な一面である。
コトハ:で、アルトはいまどこにいるの? 急にいなくなっちゃうんだから、行き先くらい伝えなさいよね!
アルト:それは悪い。俺はいまバルド湖にいるよ。オークション広場から北西に進んだところだ。
コトハ:絶賛フィッシングを満喫中ってことね。いいわフィイも一緒に連れてくから、ちょっと待ってて。
フィイ:わ、われも同伴なのか。あまり運動は得意ではないのだが……。
コトハ:それじゃあまた後で合流しましょ!
フィイ:まちたまえよコトハくん、わ、われの意見は――。
二人からの返信はそれ以上なかった。おおかたコトハが力づくでフィイを引き連れているんだろう。光景が容易に目に浮かぶ。
「あいつらも業績がまだだろうし丁度いいか。時間もたっぷりあるだしのんびりしよう」
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