084


 後から聞いた話じゃあ、その日のコロシアムはこれまでで最も熱狂的だったという。


 なんでもLv100の駆け出し冒険者が上級コロシアムを制覇したのは史上初で、しかも全員ノーダメージでクリアというのは歴史に残るような偉業であったとかなかったとか。


 俺はともかくとして、コトハがここまでやれるのは意外だった。やっぱり彼女はかなり反応がいい方だな。動体視力といい運動神経といい、たまに見せる生意気な態度が玉にきずだけど、素質は十分だと見ていい。


 ――それでコロシアムを終えた俺たちがどこに連れられたかと言うと……


「アルトくん、われらは大丈夫なのだろうか。とても仰々しい場所に案内されてしまった気がするのだが」


 フィイが緊張した面持ちで言う。


「何かしてしまったのかしら。わたしたち悪いことはしてないはずなんだけど」


 コトハもまた顔をこわばらせている。


 俺たちが招かれた先は、闘争都市バルドレイヤで最も荘厳そうごんである地〝玉座の間〟、この都市の王さまがいる部屋だ。


 ここにはコロシアム後に、上階で観戦していた騎士隊〝王のつるぎ〟によって連行されたわけだが、何用なのかは明かされていない。だがこの重苦しい雰囲気からして、入り用なのはうかがえる。


 眼前には王さまらしき人物が座しており、周囲には左右一列に騎士さまたちが立ち並んでいる。失言でもすれば即座に首をねられかねない……あれ、ここってゲームなんだから死なないよな? たぶんそのはずだけど、少し怖くなってきた。


「そうかしこまらないでくれ、君たちを招いたのはその功績をたたえてのことだ。何も厳罰を与えようとしているわけじゃない」


 開口一番、顔面のいかめしさを崩しながら、都市の王――カーラバルドが切り出した。


「功績って何のことですか? 俺たちは別にこれといったことは……」


 言いさしたところで、カーラが後ろの方に向けて手招きをする。


 颯爽さっそうと現れて膝を着いた男は〝王の剣〟の騎士団長、メルクトリだった。


「コロシアムでは実に見事な腕前をせたそうじゃないか。メルクトリが君たちの戦いぶりを見て称賛していたよ。たった100Lvに過ぎない冒険者がよもやこれほどとは、と。

 私も初めは耳を疑ったが、都市では既に君たちの話でもちきりだ。特にアルトくん、君はバルドレイヤにきた初日で50Lv差もあるハイランダー相手に決闘で勝利したそうじゃないか。早い話、こんな貴重な人材を逃す手はないということだよ」


「は、はあ……そうですか?」


 いまいち先の見えない会話に、適当な相槌あいづちで返す。


 するとカーラはまるで面白い反応だと言わんばかりに口角を緩めた。


「アルトくんにはまだこちらの主張が伝わっていないようだね」


「すみませんけど、いまいち」


「単刀直入に言うと――君たちが、我らの都市を守る騎士団に入隊しないかということだ」


『き、騎士団に入隊!?』


 これにはコトハもフィイも奇想天外だったようで、意図せず声を揃えてしまった。


 そんな俺たちの様子を見て、ますます相好そうごうを崩すカーラ。


 全てを知っている筈の俺が、またもや予期せぬイベントに直面した瞬間だった。

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