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 第十一ウェーブ目〝ケルベロス〟


「また軽々と突破していきやがったぞ、何者なんだあいつらは!?」


 第十二ウェーブ目〝ユニコーン〟


「ああやってKBでハメて攻略するんだな……参考になるぜ……」


 第十三ウェーブ目〝サラマンダー〟


「見たか!? あの坊主咄嗟にブレスをかわしやがったぞ、とても初見とは思えねえ!」


 第十四ウェーブ目〝ダークトレント〟


「あの人面樹けっこう堅いはずなんだが……突破できないということは、俺たちの火力が足りていないのか……?」


 決河けっかの勢いで攻め込んでくるモンスターたちを一蹴するたびに、観衆はよりいっそう激しく騒ぎ立てる。


 今さらこれくらいのことで驚くなんて、この世界には俺以外にやり込み勢がいないのか? いや、いたらこうなってはいないか。


「……お出ましだな」


 そして遂にやって来た第十五ウェーブ目〝フェンリル〟


 非常に高い移動速度と行動速度を併せ持つ、狼姿の大型モンスター。


 ここから先はボスが一体ずつ出てくる仕掛けになっている。


 高いHPを持つこいつには、KBを取ってハメるなんて小癪こしゃくな戦法は通じない。


 正々堂々と叩き潰す必要がある。


「コトハ、今の俺たちにはあいつをのけぞらせることはできない。隙を見て少しずつ削っていこう。要領としては大王ゴブリン戦と同じだ。回避を最優先にしていい」


「分かったわ。クリアまであと少し、こんなところで倒れるわけにはいかないんだから」


「ああ、その調子だ!」


 入場と共にたけえるフェンリルが、戦いの始まりを告げる。


 体高は目視五メートル弱、深紅に染まった瞳と銀色の毛並みが美しい。


 鋭利な爪牙そうがで攻撃してくるモンスターだが、ただの引っ掻きや噛みつきだとあなどることはできない。舐めて掛かろうものなら、一撃の内にひれ伏される定めだろう。


「――っ!」


 初動、フェンリルによる飛び掛かり。直撃すればダウンは必定ひつじょう。未来予知にも等しい反応で回避を可能としたのは、事前にこちらに知識があってのこと。


 全モンスターの全行動パターンおよび全スキルの効果、射程、速度、CTを理解した俺に不意打ちは祈るだけ無駄な芸当だ。


 振り向きざま、フェンリルのターゲットがコトハに変わったところでロッドを天高くげて詠唱する――シューティングスター。


 呼応こおうして天よりなだれ込む流れ星。全弾命中しようとも、削れたHPはほんの5%にも満たない。間違いのない強敵だ。これだけの格上を相手に、不利な条件で挑むというのは――本当に楽しくて仕方がない。格上狩りこそが廃ゲーマーの本分だ。


「お、おい見ろよあいつ……戦いの最中なのに、スキルツリー開いてるぜ!」


「ああ、それにステータス画面もだ、い、いったいなにを考えてるんだ」


 フェンリルの攻撃を紙一重かみひとえのところでいなしながら、スキル〝バウンスショット〟を叩きこみつつ、貯まったポイントを割り振っている俺に男たちが瞠目どうもくする。


 たとえ戦闘中であろうと、回避・攻撃とは別にその場でステ振りスキル振りをするのは、やり込み勢ならばできて当然の軽業かるわざだ。いわゆるマルチタスクと呼ばれるものだが、特段おどろくほどでもない。


 そして俺には既に習得するスキルも決まっていた。迷うほどの時間もかかりはしない。


「スキル〝フェリルノーツ〟!」


 天井に向かってられた一条の矢は、数多の矢を召喚するための合図である。


 直後――豪雨も同然に降り注ぐ弓矢たちが空間を裂いて飛来する。


 アーチャー系列最上位スキルであるこれは、アローレインの上位互換であり、非常に優秀なDPSを叩き出す。CTが長いという欠点があるにせよ、有用性が極めて高い。


「主よ、ためきて、我が敵の暴虐に向かへ、なんじが定めし審判を以て、我等われら萬民ばんみんたすたまえ――ティニルル!」


 さらに時期よくフィイがフェンリルにデバフを付与。これを好機とみて取ったコトハが〝影裂き〟によって狼のHPを掠め取る。そこへ追撃を掛けるのは、視界を覆い尽くす矢の嵐。


 決して深追いはせずに、じわりじわりとフェンリルのHPを削っていく。この調子でいけば問題なく突破できるだろう。コトハの動きにもキレがあることだし、後はミスプレイだけせずに気を付けて――。


「あれは?」


 ふと上を見上げた時、異質な風貌ふうぼうの男たちに気が付く。


 観客席の奥に、鎧をまとった剣士――いや騎士さまたちか。が見えるけどまさかあの一隊は〝王の剣〟か? 都市の見張り役である彼らが、どうしてこんなところに。


「まあいいや……今は目の前の敵に集中しよう」


 彼らの熱烈な視線にも構わず、インベントリからマジックロッドを取り出した。

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