062


 ハルワが特大の溜め息を吐く。


「そんなの決まってる。やっぱりテオがへたくそなのよ。いくら何でも集めすぎ、こんなの誰だって分かるわ」


「そうだよ。無理にかき集める必要なんてない」


 ナッキがハルワ側に加勢した。


 ここで即座に反対するのは、やはりタンク役のテオ。


「俺は違うと思うな。アルトさんとコトハさんは、簡単に始末できてただろ? ということはやっぱり、お前たちアタッカーの火力に問題があるのさ」


 テオがそうふっかけると、三人はぐぬぬと睨みはじめた。


 まだまだ話がまとまりそうにないな。


「じゃあもうちょっと掘り下げてみようか。三人は具体的に、何体のモンスターまでなら処理できると思ってるんだ?」


「五十だ!」テオが声を張る。


「いいえ五よ」ハルワがふんと鼻を鳴らす。


「二十くらいじゃねえかなあ」ナッキがぼそりと呟く。


 そして『え?』と顔を合わせる三人。彼らも違和感の正体に気づいたようだ。


「聞いての通り、君たちの認識にはかなりバラつきがある。それじゃあ問題が起きて当然だ。レベリングを行う前に、まずはどの程度のモンスターを釣るか相談するんだ。意外と単純なことだけど、実はコミュニケーションエラーが一番パーティーにとって危険で、壊滅する原因となる。数だけじゃなくて、レベリングルートを決めることも大切だ」


 テオたちは『おぉ~!』と声をあげる。


 その様子から今までろくに相談もしてこなかったのがありありとうかがえた。


「じゃあ具体的に、アルトさんは何体のモンスターなら俺たちに見合っていると思うんだ?」


 テオが突っ込んだ話をした。


「そこが重要だ。いくら話し合って決めても、パーティーに見合ってないほど多かったら処理できないし意味がない。そうだなあ……俺の見立てだと、君たちは二十、多くても一度に二十五が限界だろう」


 そこで「よしっ!」と声をあげたのはナッキ。


「ほれみろ、俺の言った通りだっただろ? 二十体が限度だったのに、その倍連れてこられちゃあ敵わねえよ」


 ここぞとばかりに付け上がるナッキだが、それは少々誤解がある。


「いいや問題は数だけじゃない。レベリングがうまくいかなかった原因はナッキとハルワにもあるんだぞ。たぶんあのままだと、二十体も倒せはしない」


「なんだって!?」


「それってどういうこと?」


 この反応を見るに、やはり自覚なしか。アタッカーもただスキルを撃てばいいというものでもないから大変なんだよな。


「さっきの〝アローレイン〟と〝マジックボルト〟は明らかに狙いが外れてた。先頭のモンスターを数体倒しただけで、肝心の密集している箇所に届いていない。スキルは前に立っているやつを狙うんじゃない。敵が〝最も集まっている場所〟を狙うんだ。そうじゃないと本来の力を発揮できないし、モンスターの数は減らないからな」


 目から鱗といった風に、二人は言葉もなく頷いている。


 ここまでくればもういがみあうことはないだろう。何が原因かはお互い理解したはずだ。


「パーティーは連携を取ることが何よりも大切で、失敗したときは必ず話し合うんだ。その時にやっていけないのは、誰かに罪を押し付け合うこと。みんなの足並みがそろってないと、レベリングもID周回もはかどらないからな」


 そこまで言うと、彼らはお互いに向き直って申し訳なさそうに頭を下げた。


 いわゆる反省タイムである。


「まったくその通りだ……すまねえなみんな、勝手に突っ走ってよ」


「いえ、わたしも悪いのよ。ちゃんと攻撃を当ててなかったから」


「悪いのは俺も同じだ、もう少しうまくやれてたら違ったかもしれねえ」


 以前のように口論することもなく、彼らは歩み寄る姿勢をみせている。


 この後のことはラートがまとめてくれるだろうし、もう心配なさそうだな。

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