039


「どうしたのアルト? わたし、どこか変?」


「いやてっきりまた筋力にステ振りしてるもんだと思ってたけど」


「何よ、まともなステータスにしたらいけないっていうの? わたしだって役に立ちたいって思ってるんだから」


「……そうだな、わるい」


 コトハの変化は唐突とうとつではあるものの、とりわけないがしろにするようなことじゃない。


 というかその意気込みはむしろ嬉しい。これからちゃんとしたステータスにしてくれるのなら俺の負担も減るからな。


 それにこの間の一戦――ヤカテストスとの戦いで一回も攻撃を食らってないし、実はこいつ反応がいいんじゃないかと期待してる。


 スキルも分からない初見モンスターの攻撃をすべてDODGEドッジするのって、普通に才能あるんじゃないか? その逃げ様はひどかったと言えど。


「――俺たちの当面の目標はレベリングだ。最終的なゴールは魔王の討伐だけど、レベルが低かったら話にならない。Lv差が酷いと、いくらPSピーエスがあっても戦いにもならないからな」


 俺の意見に、フィイが「うむ」と言って同調した。


「とすると、ひとまずは〝Lv100に到達〟が直近のゴールというわけだ。Lvが100になれば二次転職を行うことができる。次はどんなジョブに転職することができるのか、われも非常に楽しみだ」


 フィイは物分かりが良く、俺の意図を難なくってくれる。これからのスキルも支援系統をメインに取得してくれるだろう。大助かりだ。


「ね、ねえ!」


 忽然こつぜんと、ずっと沈黙していたコトハが口火を切る。いつになく早い口調からは、言いようのない焦りを感じた。


「IDでわたしにも何かできることはない? その、できることなら何でもいいから!」


「できること……か」


 彼女の願いはあまりにも漠然ばくぜんとし過ぎていて、そんな真剣な目で見つめられてもこれといったものが浮かばなかった。


 フィイならバフデバフがあるが、コトハは火力職な上にHPが低く肉壁にくかべとしても機能しない。よってハッキリ言ってしまえば無いとしか……。


「コトハはLvが上がるのを待っていてくれ。時間はかかるが、俺ひとりでも殲滅せんめつできる。Lvが上がって体力にステータスを振ってから――」


「そんなの嫌、わたしは早く力になりたいの。……ねえアルト、何かない?」


 と言われましても、うーん、これは困ったもんだ。彼女が一緒に戦うにはHPが足りない。


 スキル〝等価交換〟が習得できれば、一時的にステータスを再分配できるため、余りある筋力を体力に変換することができる。


 が、コトハは肝心のスキルポイントが不足していて習得できない。既に攻撃スキルを習得しているのが原因だ。攻撃スキルはスキルポイントが重いんだよな……。


「いや待てよ、あの手があるか」


 一撃でも食らえないというのなら、一撃を貰う前に殲滅してしまえばいいだけの話――それは俺の信条でもあり、好んで用いる戦闘スタイルでもある。


 しかし流石にそれはどうだ、俺と彼女には途方もないPS差があるし、やれといってできれば苦労はしない。彼女を戦わせたら間違いなく即戦闘不能行きだろう。だが……


「ひとつだけ案がある。もしモノにできれば、並みのMOBは目じゃないだろう。半面かなり険しい道のりでもあるが――どうする」


「やるわ」


 コトハは即断で応じた。


「わたしが自業自得なのは分かってるから、甘えたりしない。だからもし力になれることがあるのなら、どんなことだって乗り越えてみせるわ」


 いい心構えだ。これなら途中で萎えたりしないだろう。


「それじゃあ早速始めるぞ。もう平原にも着いたことだし」


「え、始めるって何を?」


「特訓だよ特訓。ほら、モンスターがいくらでもいるだろ? だからさっさと行って倒してこい」


「ちょっ、え、はあ? それでもしわたしがダウンしたらどうするのよ!」


「起きるまで待つさ。で。起きたらまたすぐに向かわせる。谷底に到着するまでは、ひたすらそれの繰り返しだ。道中のMOBモブはすべてお前が倒せ。いいな?」


 そこまで言い放った途端、コトハの顔色はみるみるうちに青ざめていった。


「……冗談よね?」と頬を引きらせて彼女が言う。


 無論、俺は本気である。


「これがお前のPSを上げる最適の方法だ――いいから早く行ってこい!」


「ちょっと、うそ、そんなのいや――嫌あああああぁぁぁぁぁ!!!」


 モンスターの群れに向かって、コトハを放り投げる。


 死に物狂いで二刀にとうを振り回すコトハ。


 直後、コトハの戦闘不能状態を報せる、ピコッっとはかないサウンドが鳴った。

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