004


 宿屋を出て向かった先は、能力付与バフ屋。街並みは俺が知っているADRICAとほぼ同じなおかげで難なく辿り着くことができた。


「さあ、着いたぞここだ」


「……ここって?」


 バフ屋、とデカデカと書かれた看板を見て、コトハは呆然としている。ここが何のショップかは知らないらしい。


「ここは一時的に特殊な能力を付与してくれるショップさ。プラスになる恩恵のことをバフっていうんだけど、ここでバフをもらっていくことで、簡単に序盤のモンスターを倒せるようになる。とりあえず物は試しだ。ここは俺を信じてくれ」


 彼女を連れて中に立ち入り、二つのバフを注文する。


 選んだバフは、エナジーとサージ。


 店員さんのスキルによって、俺たちは赤と黄、二色の淡い光に包まれる。


 そうしてバフの付与はただちに完了した。ちなみに俺は持ち合わせがないので、支払いはコトハが済ませてくれた。ヒモ男みたいでなんだか嫌だ……狩りで稼いだらすぐに返そう。


「悪い、恩に着るよ。二万ルクスも出してくれてありがとう」


「気にしないで。一緒のパーティーになったお礼よ。それに大した額でもないし。ところでさっきの光は何だったの? わたしちょっとだけ怖かったんだけど……」


 なるほど、金額のことなど気にも留めていない彼女は、確かにお姫さまのようだ。


 結果論ではあるけれど、こうしてバフ代を出してもらえたのを考えると、一緒にパーティーになってお互いに良かった。これからレベリングがかなりはかどる。


「赤色のバフ、エナジーは全てのステータスを上昇。

 黄色のバフ、サージは俺たちの攻撃に雷属性を付与してくれるんだ。いわゆる追加ダメージってやつだな。ステータスに関係なく、一定ダメージを与えてくれる。

 序盤のモンスターはHPが低いやつばっかりだから、この二つでだいたいはワンパンできるぞ」


「す――すごいじゃない、これならスライムやゴブリンも目じゃないわ!」


 打って変わってコトハは輝きに満ちた瞳で言った。


「序盤の敵なら装備を揃えるよりもこっちの方が格段に効率がいい。ワンパンできるからPSピーエスも必要ないし」


「PS? ――まあいいわ、それじゃあ早速クエストに行きましょう。気分がいいから今度は私が案内してあげる。どうせギルドに行くの初めてなんでしょ?」


 得意げに鼻を鳴らすコトハにはむしろ嘆息たんそくが込み上げてきた。


「ギルドにはいかないって言ってるだろ。お使いクエストなんてやってたら、いつまで経ってもレベルが上がらないぞ」


「えっと、それじゃあこのあとはどうするの?」


「どうするって決まってる――レベリングだ」


「レベリングって、やっぱりクエストに行くんじゃない」


 いかにも解せない、と言いたげにコトハの目つきは細くなっている。コトハ視点だと〝レベリング=クエスト〟という固定観念があるのだろう


「いいや違う。レベリングは何もクエストをこなすことに限らない。レベルを上げるのにもっと効率のいい方法があるんだよ」


「もっと効率のいい? それって――」


「狩りだ」


 息をのんで沈黙するコトハに言葉を続ける。


「俺たちはこれから狩りに出る。それもスライムやゴブリンみたいな雑魚がいる狩場じゃない。――レベル30以上のモンスターがひしめき合う、上等な狩場だ」


「レ、レベル30以上!?」


 俺たちのレベルは1。レベル差29以上もあるモンスターなんて倒せるわけないだろう。そう言いたげな彼女の動揺も振り払って、手を取る。目的地は街の外にある狩場――セスタスの森だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る