スキル覚醒⑤
「そうだ。お前にだって夢くらいあるだろう? 一生ファラオに仕えて、それで満足なはずないよな」
ムスタラはあくどい顔でいった。
「先ほどから何延々と寝ぼけたことをいっているのですか、片腹痛いですよ。私の望みはただ一つ、ファハド様と添い遂げることです!」
バラカは一切の迷いもなく、堂々と言い放った。
「レイラはみんなが楽しい世界じゃないと嫌。ムスタラのいってる世界はきっとつまらない」
「にゃーん、にゃーん(人に戻れるならなんだっていいわ)」
「ふん、所詮はアルスウルの田舎者か。物事の大局も見えていなければ、志も低いとくる」
「大局を見誤っているのはあなたの方です。ファハド様の実力は私たちの力を凌駕しています。邪神アポピスがいかに強大であれ、ファハド様の敵ではありません」
「お兄ちゃんの力がわからないなんて、ムスタラは相変わらず気の流れを読むのが下手なんだね」
レイラは憐みの眼差しでムスタラを見上げた。
「ならば、どちらが正しいか証明するとしよう」
「ムオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!」
ムスタラが指をパチンと鳴らすと、ミノタウロスはスイッチが入ったように咆哮を上げた。
ムスタラはそのまま奥の部屋に入っていった。
「レイラはムスタラを追ってください。一応、この子を付けておきます」
バラカは耳飾りを外すと、鷹の形をしたカヤリになった。
「バラカお姉さまは?」
「私はファハド様と共にミノタウロスを討ってから、そちらと合流します」
「えー、レイラもファハド様と一緒に戦いたいー」
「追跡であればレイラのテウルギアの方が適性です」
「バラカお姉さまのカヤリだって、十分有用」
「それでは、ミノタウロスの攻撃を受け止められますか?」
「レイラなら近付けさせない」
「ちょっと二人とも、言い合ってる場合じゃないよ!」
ミノタウロスがこちらへ向かって突進してきていた。
「私の出番ですね」
ここまでミノタウロスに接近されてしまっては、レイラのいう近付けさせない戦法どころではなかった。
「一つ貸しだから!」
レイラはそう言い残すと、ムルを連れてコロシアムの観客席の方へ軽快に跳び込んだ。
「ムオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!」
ミノタウロスの獲物は巨大な戦槌だった。頭の部分だけでバラカよりも大きかった。
その巨大な戦槌を、ミノタウロスは軽々振り下ろした。
見た目の割には意外と軽いのかという考えは、戦槌が地面を叩き割った瞬間に消し飛んだ。
地面が砕け、砂埃が舞い上がり、視界がホワイトアウトしたように遮られた。
「くっ」
完全に目を閉じるのは自殺行為なので、僕は薄目で状況把握に努めた。
砂煙の中では、バラカとミノタウロスがやり合っている音が鳴り響いた。どうやらバラカを無視して、僕の方へは来れないようである。
「バラカ、大丈夫!?」
「オークの時と同じです! 生半可な攻撃では瞬時に再生してしまいます! それに、迂闊に手を出すと、反撃をもらうようです!」
バラカがいっているのはジャウヴ村での依頼、呪い装備を着用したオークの一件である。
(まさかミノタウロスに呪い装備を着用させているのか……!?)
「それなら、あの時と同じように僕の一斉射撃で……!」
僕はホルスターから呪い装備マックスを引き抜き、照準を砂埃の中に浮かぶ巨躯へと定めた。
あの時と同じように、弾丸を砂埃の中に留め、一斉射撃の火力でミノタウロスを葬ろうと考えた。
ただしあの時は洞窟内という環境で、オークの逃げ場が限られていたということもあり、弾丸を浴びせることができたが、この開けたコロシアムで、果たして一分後のミノタウロスに弾丸を当てられるだろうか。
バラカはミノタウロスを中心に円を描くように立ち回って、何とか標的が動き回らわないようにしてくれていた。
バラカは僕がミノタウロスに致命傷を負わせると信じての立ち回りだった。
(やるしかない!)
四の五のいっている場合ではなかった。僕は最強無敵のファラオとしての期待に応えるしかないのだ。
僕は一秒間隔でカチッカチッと引金を引き始めた。
乾いた発砲音と共に、空間に銃弾が充填されていった。
その時、砂煙の中の巨躯が忽然と姿を消した。
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