嵐の前の静けさ②
「いくつか確認したいんだけど、二人はバラカと同じくらい強いのかな?」
「近接戦闘においてはバラカが頭一つ抜けていますが、我々の有用性は同じだと考えてもらって構いません」
「レイラは幻術が得意、カミール兄さまは諜報専門」
「幻術って、さっきの影のバラカのやつかな?」
「正解」
「レイラは人より器用で、テウルギアをいくつも習得しています。正直、一番戦いたくない相手です」
「それはこっちの台詞。燃やしても凍らしても止まらないし」
「レイラ、ファハド様の前で変なことをいわないでください!」
(燃やしても凍らしても? いやいや、まさか本当にそんなことやってるわけないよね)
この時のレイラの言葉が誇張でもなんでもない真実だと知るのは、少し先のことだった。
「つまり、二人も殴ってオークを倒せるくらい強いんだね」
「オークを殴る?」
レイラはきょとんとした。
僕だってバラカと一緒に戦ってなかったら、こんな英雄譚の一節にありそうな話は信じられなかっただろう。
訓練時代からの知り合いだと聞いていたから、てっきりバラカの戦闘能力の高さを知っているものだと思っていた。
「主の前だからといって猫を被っていたのか」
「ん? 誰が猫を被っていたの?」
僕はカミールの言葉の意味を理解できなかった。
会話の流れだと「バラカが」となるが、素手でオークを殴り殺す様は十分に衝撃的だった。
「バラカは昔から怪力で、訓練時代はミノタウロスといわれてからかわれていたのです。それが嫌で、主の前ではか弱い女の子で居ようとしたようです」
(か弱いって何だっけ?)
僕の中でか弱いの定義が崩れそうだった。
「大木を引き抜いて、それを振り回してオークを一網打尽にしてた」
「二人とも、そのことはあまりいわないでください!」
バラカは恥ずかしそうにしていた。
「世界の崩壊が始まり戦いが激化すれば、主を守るために死力を尽くすことになる。遅かれ早かれいずれはバレることだ」
「うぅ、ファハド様も拳で地面を割ったり、自分より大きな岩を持ち上げたりする女の子は嫌ですよね」
「オークの討伐で本気を出していなかったんだって驚きはあるけど、嫌いになったりはしないよ」
「ファハド様、これはもう愛の告白と受け取ったらよいのでしょうか」
「それは飛躍解釈しすぎだよ!」
「レイラのテウルギア『ワフム』だって、同時に千人くらいの幻影を作り出せるもん!」
レイラは負けじと僕とバラカの間に割って入った。
「数が多くても幻影は戦力にならないではありませんか」
「そうでもないよ。敵を引き付けたり、攪乱したり、色々使い道はありそうだけど」
僕に使いこなせるかは別の話である。
「ふふーん。お兄ちゃんにはレイラの凄さが伝わったね」
「ちなみに、我がテウルギア『アサルト』は気配遮断と気配察知に優れています」
(えっ、カミールも乗っかって来るの!? 止める人が居なくなっちゃうよ!?)
内心ではそう思いつつも、僕は相手の話はきちんと聞いてしまう性格だった。
「カミールのテウルギアはどういう使い方ができるのかな?」
「先刻レイラがやったように、体内を流れる気を制御し、自身の体から一切の物音を立てないようにすることは、訓練さえ積めば誰にでもできますが――)
(え? そうなの?)
「――我がアサルトは光や匂いさえも体外へ漏らしません」
「へぇ」
僕はいまいちピンと来ていなかった。
「口で説明するよりも、実際に見てもらった方が早いでしょう」
何が始まるのかと期待に胸を膨らませていると、カミールの姿は徐々に色褪せていき、完全に真っ黒な存在へと変貌してしまった。
カミールの居た空間にぽっかりと穴が開いたような、立体なのか平面なのかさえ肉眼では判別がつかなかった。
カミールはその場でぴょんぴょんと跳ねたり、壁を叩いたりしたが、一切の音も響いてこなかった。
「いかがだったでしょうか。気の流れを体の内側へ向け、光の粒子すら体外へは零しません」
「うん、凄かったけど、逆に目立ってたよ」
「この力の真髄が発揮されるのは光なき暗闇においてです。いかに気配探知が優れた者であれ、我が影を看破することはできません」
カミールは自信に満ちた表情でいった。
「なるほど、そういう使い方なんだね」
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