8、この世界での国の在り方

 今から百年ほど前、まだ災厄獣が存在していなかった頃。この国は〈アズマ〉ではなく〈ニホン〉と呼ばれていたらしい。

 災厄獣に破壊し尽くされ〈ニホン〉は国としての姿を保つことができなかった。

 〈ニホン〉だけではない。かつては世界の中心だったという〈アメリカ〉、世界一の人口を誇っていた〈チュウゴク〉、多くの物語の舞台になった〈ヨーロッパ〉────その他、多くの国が崩壊し、新しい姿へ生まれ変わった。

〈ニホン〉は〈アズマ〉に。

〈アメリカ〉は〈フリーラン〉に。

〈チュウゴク〉は〈カキョウ〉に。

〈ヨーロッパ〉は〈クリスタ〉に。

 どの国でも、権力を握ったのは、災厄獣を倒す光を操る英雄ヒーローを排出した家と、赤光刃しゃっこうじん蒼光銃そうこうじゅうなど、対災厄獣兵器の開発に携わった者だった。

〈アズマ〉で言えば、五大家ごたいけがそれにあたる。

 一條いちじょう二宮にのみや三國みくに四津谷よつたに五峰ごほう

〈アズマ〉最初の英雄ヒーローとなったこの五つの家を頂点とした五つの街で、人々は暮らしている。

 かつてはカントーと呼ばれた場所には、一條の街。

 カンサイと呼ばれた場所には、二宮の街。

 トーホクと呼ばれた場所には、三國の街。

 キューシューと呼ばれた場所には、四津谷の街。

 ホッカイドーと呼ばれた場所には、五峰の街。

 街と街の間には荒野が広がっている。いつ災厄獣と遭遇するのかわからないので、街から街への移動は容易ではない。

 五大家の人間は、〈アズマ〉をまとめるために通信のやり取りをしていたり、時には危険を承知で他の街へ足を運ぶこともあるが────その他大勢の人間は、自分が住む街から一歩も出ないまま暮らしている。

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