第36話 はぁぁぁ!?
「どこにもいらっしゃらないかと思えば」
「朝から煩い」
「煩くさせてるのは誰のせいですか!!」
「グウェン」
「はぁぁぁ!?」
「煩い」
珍しくジュリアスがグウェンから怒られているのを聞きながらの朝食。
傍らにはやけにテンションの高いミヤが始終マリーリの周りをニヨニヨしながら徘徊していた。
「ミヤ。気が散る」
「あら、失礼しましたぁ〜。うふふふふ」
「はぁ……」
(絶対勘違いしてる)
あのミヤのニヤけた顔つきからジュリアスとの仲が進展したのだと勘違いしているようだが、訂正しようにも「いいんですいいんですぅ〜。あ、今日はお祝い膳にでもしましょうかぁ〜」と、とりつく島さえない。
そしてジュリアスは相変わらずグウェンに怒られていた。
「いいですか? 勝手に部屋から出て行かれるとこちらの管理もありますし、朝から大捜索するハメになるんですよ?」
「大袈裟だ」
「そう言いますけどね、ボクがここの執事として任されたからには……っ」
「グウェン。マリーリさまも今お食事中なんだから、もう少し声を抑えられないの?」
「ミヤ、キミもマリーリさまの専属メイドというならもっとちゃんとだなぁ」
「いいじゃない、仲がよろしくて。ねぇ、ジュリアスさま」
「あぁ」
「あぁ、じゃないんですよ! だったらせめて日にち決めてくださいよ。それか曜日とか!」
(んんんん?)
何やら変な方向に話がいってるなと思いながらも彼らの会話の行方を大人しく見守るマリーリ。
目の前で繰り広げられる会話はまるでコントのようで、相変わらずジュリアスは他の人に対して応答が淡白すぎな気がするがそれはやっぱり気のせいではないのだろう。
「週三は?」
「多すぎます! 部屋をわけた意味がないでしょう!!」
「では週二」
「週二でもいいですけど、そこからずるずるいきません? そもそも部屋をわけた理由だって……」
「グウェン」
「はっ、失礼しました。と、とにかく、せいぜい週一です。それ以上はお仕事が片付かないとダメです。ご自身でもわかっているでしょう!?」
「わかった。なら週一で金曜はマリーリの部屋に泊まる。異論は認めん」
「わかりました。では、その日程で調整します」
(んんんんんんん? なんか私そっちのけで勝手に話が進んでるけど)
「よかったですねぇ、マリーリさま」
「何が」
「え? 今の話、聞いてなかったんですか?」
「いや、聞いてたけども」
(これってつまり週一、金曜日にジュリアスが私の部屋に泊まりに来るということよね?)
思わぬ展開に、マリーリはジュリアスを見る。
すると視線を感じたらしいジュリアスはこちらを見ると、なんとも嬉しそうに微笑まれてしまって、それ以上何も言えずに大人しく朝食を食べ進めるのだった。
◇
パァァァァン……!
音と共に鳥達が飛び立つ。
なんだか朝からドタバタしていて落ち着かないので、久々にマリーリは猟銃片手に野鳥でも仕留めようかと森に来ていた。
……なぜかジュリアスも一緒に。
「あぁ、外しちゃった」
「腕が落ちたんじゃないのか?」
「んー、確かに最近来れてなかったからなぁ。てか、いいの? せっかくのお休みなのに」
「何が?」
「私と一緒に狩りに出てきて疲れない? お休みなのだから、家でゆっくりしていればいいのに」
「なんだ、一緒に狩りをするのは嫌なのか?」
「別に、そういうわけじゃないけど」
「ならいいだろう?」
「まぁ、いいけど」
一応体調面でも心配していたのだが、どうやら心配はないらしい。
というか、さっきまで上機嫌だったはずなのに今はなんだか拗ねているようだった。
相変わらずコロコロ変わる機嫌に幼馴染といえど読めない。
「どうしたの? 具合悪い?」
「別に」
「もう、つれないわね。いいわよ、ジュリアスがそんな態度なら私だって好き勝手させてもらうわ」
そう言って歩き出そうとすれば、腕を掴まれる。
「何」
「何、じゃない。一人で出歩いたら危ないだろう。クマが出るかもしれないし」
「クマが出たら今夜はクマ料理ね」
「全く、変なところポジティブだなマリーリは。だが、冗談でもクマと対峙しようとはしないでくれ、肝が冷える。とにかく危険だから一緒に行くぞ」
「心配性ね」
「マリーリにだけな」
暗に自分だけ特別、と言われているようでなんだか嬉しくてはにかむマリーリ。
我ながら単純だ、と思いながらジュリアスにくっつく。
「せっかくだから今夜の食事の材料調達をしましょうよ」
「元からそういうつもりだが?」
「そうだったの?」
「マリーリは違うのか?」
「え、と……私は……」
(朝から色々ありすぎて、気持ちを落ち着かせるために出てきたなんて言えない)
密着状態の起床からそれを見られてからかわれ、さらに勝手に週一で添い寝が確定してしまったマリーリにとってはあまりに情報量が多すぎて、キャパオーバーである。
(まぁ、嬉しくないわけではないけど)
毎日寝る前にはジュリアスが部屋にやってくるのが日課になっているし、一緒に寝るのも存外悪くはなかったとマリーリは思う。
毎回羽交い締めされるのは困るが、無防備なジュリアスを見られて、さらに好きなだけくっつけるし、甘えることができる。
あとちょっと狭いものの、布団は暖かいしジュリアスの体温は心地いいし、いいことづくめだ。
(そういえば、ジュリアスはあのキスのこと覚えているのかしら)
久々の二度目のキスがまさかあんなだとは思わなくて、未だにドキドキするマリーリ。
それもあって気持ちを鎮めたかったのだが、ジュリアスは覚えているのか、それとも寝ぼけてたのか、ジュリアスの様子を窺ってはいるものの、マリーリにはわからなかった。
かと言って掘り返す勇気もなくて、未だにモヤモヤしているのだが。
「マリーリ?」
名前を呼ばれてハッと我にかえる。
つい自分の思考に夢中になっていて、ジュリアスのことをすっかり忘れていたマリーリ。
「はっ、ごめんなさい。考え込んでいたわ」
「大丈夫か? まさか寝不足か?」
「いえ、睡眠は十分よ。とにかく今夜の食材確保しなきゃね」
「あぁ。だが、あんまりボーッとしてると本当にクマに食われるぞ?」
「大丈夫よ、もうしないわ。ではどっちが多く仕留められるか競争ね!」
「騎士団一の腕前と謳われた俺に勝てると思っているのか?」
「何事もやってみないとわからないでしょう?」
二人はそれぞれ離れずに程々の距離を取りつつ狩りを始める。
そして競争に夢中になりすぎて鴨、ウサギ、鹿などを次々に狩猟してしまい、あまりに大量すぎて処理しきれず領民達まで借り出すことになり、その晩はグウェンとミヤ両名から二人は揃って怒られてしまうのだった。
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