第52話 更科課長は見た! 4
春になり、梅雨が明け、そして。
悲しいくらいに真野さんとの距離を縮められない忽那さんがとうとう行動を起こした。
なんと彼自身が飲み会を企画したのだ。それも四葉不動産とうちとの交流会とかいう、それなりに大きな飲み会を主催してきた。
『―ですから、是非とも推進課の皆さんにも全員出席していただきたいんです』
「そうですね。ええ、予定を聞いてみますよ」
『もしも予定が合わない社員がいましたら教えてください。日程を調整しますので』
それって真野さん一人を念頭においてしますよね?
「ええ、聞いてみますよ」
『よろしくお願いします。あと、こちらから無理を言ってのお誘いですので推進課の女性の参加費は私が持ちますよ』
「しかし、傾斜配分をつけるのはいいですけれど……」
そこまでして真野さんを引っ張り出したい気持ちはものすごくよくわかる。
分かるけれども。お会計時にタダだと、あとあと遺恨が残ったりするから最低限の会費徴収はポーズとしても必要。つーか、その女性にわたしは入ってるわけ?
『……では、一応千円ということで』
まあそのくらいなら。
忽那さんはしつこいくらいにくれぐれもよろしくとわたしに伝えた。
はいはい。真野さんと飲みたいんでしょ。
飲み会ならいくらでも真野さんを口説けるってもんよね。
だったらもっと早い段階でどうにか二人きりになれる状況を作り出せばよかったのに。
まあ彼が焦り始めたのも無理はないのか。
不動産から流れてきたうわさによると、今後うちとのミーティングは彼の部下の田中くんが中心となるらしい。課長でもある忽那さんはもっと全体を見ろということなのだ。ものすごくよくわかる。うちに関しては忽那さん使いっ走りのようなことも積極的に請け負っていたし。
さて、わたしは真野さんと小湊さんを捕まえて事の詳細を伝えた。
小湊さんは飲みの場にも顔を出してくれるから安心しているんだけど、忽那さんの本命である真野さん。彼女が読めない。
わたしは少し大げさに話を盛ることにした。
空気を読める子でもある真野さんは、わたしの困り顔に同情してくれてあっさりと出席を承諾してくれた。
ありがとう。マジ天使!しかし、あなた忽那さんにロックオンされているんですと伝えられないわたしを許して。
交流会なら他の課にも声を掛けてみればなんて真野さんは気を利かせたけれど、それについては大丈夫。忽那さんは単に真野さんと飲みたくてこんな会を設けただけだから。
うっかり鈴木さんなんて呼んじゃったら忽那さん可哀そうでしょ。
真野さんと話したくてたまらないのに、鈴木さんに全部持って行かれちゃうってもんよ。
あの子ただでさえ、真野さんのこと目の敵にしているんだから。本人は隠しているつもりだろうけど、わたしのことを煙たく思ってることだってちゃんと分かっている。
ちなみに交流会開催のことはすぐに漏れた。
オフレコって言っておいたのに、うちの課の男どもはまったく。口が軽いんだから。
案の定というか、参加したいとさりげなく女子社員からアピールされ。
しかしそれを華麗にスルー。女子社員にいい顔をしたい推進課の某社員からのさりげないお願いも華麗にスルーをして、飲み会当日がやってきた。
真面目に幹事役をこなす忽那さんは最初こそ真野さんに構うことが出来ずに忙しそうに立ち回っていたけれど、ある程度お酒が回り始め、場が温まってきた頃。
ちゃっかり真野さんの隣に移動をした。
それから……。
……。
ああもう。肝心のわたしが記憶を失くしたわ!
一次会の最後から記憶がないっ!
くっそー。
飲み過ぎた。
しかし。
その後、忽那さんと真野さんが付き合っているという事実がオフィス内を駆け巡って、みんなが衝撃を受けていたから、まあなんていうか。忽那さんは上手くやったってことなのだろう。
さすがは忽那さん。
あのにぶい真野さんを釣り上げるとは。
長年の苦労が報われてよかったね、とわたしは一人で祝勝を上げた。いや、あれは娘を取られた父親の心境だったかも。
つーか、飲みの席で一度一緒になっただけで速攻そういう仲になるとは。やっぱり四葉不動産勤務のエリート様はさすがだわ。
その真野さんは最近きれいになって、オフィス内をざわつかせている。
今更真野さんの価値に気づいたって遅いんだからね!
あんたたちにはあげないんだから。うちの秘蔵っ子は。
忽那さんにもあげる気は無かったんだけど。
色々とあったみたいだけど、真野さんが幸せそうだからいいか。
それにしても結婚って早すぎよね?
真野さん相当に戸惑ってるし。
しかも披露宴に四葉不動産の専務呼ぶとか。
外堀埋めまくるのもいいけれど、披露宴の席次とあいさつ、大変なことになりそうでこっちの胃が痛いんですけど。
今からダイエットしておこうかしら……。
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