第44話 アークティア人にまつわる話

「茶でもれるか。ほんの手慰みだが……ちょっと待ってな」

「あら、わたくしにも淹れさせてくださいませ」


 父さんと母さんが、そろってお茶を淹れだす。

 待ってる間、少しばかりリリアンネとだべることにした。


「なぁ、リリアンネ」

「うん」

「さっき俺がいない間、母さんと何を話してたんだ?」

「んーとね」


 リリアンネは、思い出しながら話し始める。


「まずね、『本当は、どちらからいらした方なのですか?』って聞かれたよ」

「父さんと同じ疑問持ってたのかよ……」


 おしどり夫婦というか何というか。ときどき思うんだが……もはや前世が双子だったんじゃないかってくらい、思考が一致するときあるんだよな。俺の両親。


「だから、素直に『アークティア星から来ました』って言ったよ」

「おぉい!」


 不用心だな、と思った。

 もうとっくにバレている話とはいえ、話し始めた段階ではまだ知らなかったはずだ。


 だがリリアンネは、笑顔で首を軽く振った。


「ゆーた、私が何をできるか、もう忘れたでしょ?」

「何のことだ?」

「今、『不用心だな』って思ったでしょ」


 そうだった。リリアンネは心を読めるんだった。

 ってことは、母さんの心も読んで……?


「うん、そうだよ。ゆーたのお母さんも異星人に理解があったみたいだから、素直に答えたんだ」

「んー、それはそれでいいんだが……」


 俺の懸念事項は、そこじゃなかった。


「もしリリアンネが異星人だって知れ渡ったら、何が起こるかわかんねぇんだぞ……?」


 なんて呟いた次の瞬間。

 リビングに、冷気が広がってきた。


「あら勇太、わたくしの口が軽いとでも?」

「そ、そういうワケじゃねえよ母さん!」


 笑顔で、落ち着いた声音で呟いているが、今の言葉は母さんを怒らせたかもしれない。


「母さんの口が堅いのは知ってるけど、何かあったら……」

「うふふ、勇太。心配する気持ちはよくわかるわ。確かに、いまだにアークティア人の皆様は、わたくしたち地球人に好奇の目線を向けられている。そういう風潮があるのは、よぉく存じておりますとも」


 あれ、これ俺地雷踏んじまった?


「だからこそ、広まるのを今は恐れる……それはもちろん、自然な感情ですわ。ただ、ご安心を。駿河するがの名にけて、時が来るまではこのことを胸に秘めますとも。それに……」


 部屋の冷気が、いっそう強くなる。


「ここにいるわたくしたち以外の者が、倫理的に許されざる方法でリリアンネさんの素性を明らかにしようとした場合……我ら駿河家が総力をもって、ありとあらゆる対応をさせていただきますとも」


 えーっと、リリアンネ。


「なに、ゆーた?」


 “お茶の間が凍りつく”って、このことを言うんだな。


「そっか」


 そっけねぇ……そっけねぇぞ、オイ。


「んー、私、あまり怖い感情って感じないから」


 ……くすん。




 俺は冷気と恐怖に包まれたまま、父さんから差し出されたお茶を受け取った。

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