第22話 お金の稼ぎ方

「ねーねー、ゆーた。いちおー聞くけど、さっきなにしてたのー?」

「塾の先生だ。と言っても、あくまでバイトだけどな」


 この調子だと、いつの間にか覗かれていたらしい。

 しかし、どうして誰にも気づかれなかったんだ? 教室長あたりに気づかれるかもしれないはずだ。そうでなくとも、リリアンネは目立つスタイルだというのに……。


「ふふん。私はゆーたたち人間から見えないようにすることもできるんだよ」

「嘘だろ?」

「ホントだってば。何なら、ここでやってみる?」

「やらんでいいっ!」


 まだ人目があるのに、こんな場所でマジックじみたことをされてたまるか。実際にはマジックじゃないんだろうけど、とにかく目立ってしまう。それは嫌だった。


「しょーがないなー……。じゃ、家帰ったらね」

「ああ」


 何とか騒ぎを起こすのは避けられたようだ。

 しかし……俺の居場所を正確に把握するのといい、心を読む力といい……そして誰にも気づかれない力といい、いったいどういう原理なんだ?


「教えてもいいけど、今のゆーたには、まだまだわからないかなー」

「覗くなっ!」


 ばっちりバレていた。うーん、アークティア人恐るべし……。


「ところでさ、ゆーた」

「ん?」

「ゆーたはどーして、バイトしてるの?」


 いきなりすぎる質問だ。

 ただ、答えは決まっていた。


「食費とエロゲーのためだな。働けばその分だけ、美味しい食事と面白いエロゲーにありつける」

「ふーん」


 あっさりした返事だ。ま、リリアンネなら仕方ないだろう。

 とっくに方針とか心構えってのは、バレてるかもな。


「そっかそっか。働いたら、そのぶん食事とエロゲーをねぇ……」

「ん、どうした?」


 リリアンネは呟きながら、何やら企んでいるような笑みを浮かべている。


「ならゆーた。一つ提案があるんだけど」

「ああ」

「私が養おっか?」

「ぶっ!?」


 突然の勧誘に、吹き出してしまった。ちょ、リリアンネ、それ日本語では“ヒモ”って言うんだぜ!?


「ヒモかー。聞いたことはあるけど、こんな感じなんだねー」

「いやいやいやいや……」


 割ととんでもない話を進められそうだ。

 このままヒモにされてしまっては困る。


「あのな、俺はヒモになるつもりは無いから! まったく! 分かる!?」

「立派な労働でしょー? 私と一緒にいるのは」

「それをヒモと言うんだ!」


 リリアンネが首を傾げているが、俺や世間一般の認識ではそれこそ“ヒモ”である。


「あのな、一緒にいるのはいいけどよ、お金は自分で稼ぐからな!」

「えー? 私一人だと使い切れないんだけどなー」

「それでもだ!」


 魅力的な提案なのは分かっているが、それでも頼りっぱなしでいるつもりはない。生きるために、遊ぶためには自ら稼ぐ必要がある。

 だからこそ、思い切って新居に移ったわけだ。今は家賃を仕送りしてもらっているが、それも大学にいる間。それからはとどまるにせよ引っ越すにせよ、俺一人で生きていくつもりだった。


 ……過去形なのは、リリアンネと一緒にいたいからだ。

 出会ってから惚れるまでこんなに早いとは思わなかったが、俺はリリアンネと一緒にいると、どうしようもなく落ち着くらしい。


 ただ、それでも、お金だけは自分で稼ぎたい。

 何とはなしに、そういう願望がある。


「……仮に、だ」

「ん」

「仮に一緒にいるとしよう。リリアンネは自分のお金をいくらでも使ってくれていい。ただ、俺に関することには使わないでくれ。俺は俺で稼ぐ」


 言った。言ってしまった。

 ちょっと突き放した感じがするが、これで――


「うーん。いくらゆーたでも、ちょっと聞けない願いかな」

「おいぃっ!?」


 即座に全否定されてしまった。


「稼ぐのはいいよ? もちろん応援してる。けど、ゆーたのためにお金を使わないって約束は、守れないと思うんだ」

「なぜに」

「ゆーたに作ってもらう料理の食材、たっぷり買ってくるから」


 そうだった。俺の手料理をいたく気に入っているリリアンネなら、ありえることだ。


「はぁ……ならしゃーない。けど、なるべくお金に手はつけないつもりだからな」

「いいよ。けど、私も気にせず使うから」

「とほほ……」


 巻き添え確定だ。

 結局、ヒモ化阻止作戦は失敗に終わったらしい。




 やれやれといった気分のまま、俺たちは自宅に到着したのであった。

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