4「取り戻します!」①





 数年ぶりに戻ってきた実家は、更地になっていた。


「あれま」


 まったく思い入れのない家ではあるが、ダフネとデリック、使用人のみんなとの思い出がないわけではない。

 なかなか思い切ったことをしてくれるものだと感心する。


「やあ、サミュエル・シャイトくん。そして、そのお供たち」

「アルフレッド・ポーン。相変わらず、君の悪い顔をしているな。女神とかどうでもいいから、リーゼとクリーを返せ」


 今すぐ飛びかからないのは、まだ理性があるからだ。


「そう慌てることはないよ。霧島薫子、ゾーイ・ストックウェルを連れてきたということは、最悪の場合は彼女を差し出さなければならないと理解しているのだろう?」

「……お前は絶対に殺してやる」

「かわいそうに、追い詰められた君には強い言葉で噛み付くことしかできない」

「――――」


 もう勝った気でいるアルフレッドに、対し、サムはなにも言えなかった。

 実際、追い詰められているのは間違いないのだから。

 すでに、リーゼとクリーを奪われたことで後手に回っている。


「おっと、そんなに睨まないでもらいたい。妻を奪われたのは、君たちが弱いから悪いのだからね」

「そもそも奪おうとしなけりゃ、お互いに平和に暮らしていたんだけどな」

「そこから違うのさ。聖女は女神を復活させるための道具なんだからね。利用するのはこちらの自由だ」

「……あんたって、本当に言動ひとつひとつがいらつくなぁ!」

「君に好いてもらわずとも結構さ。そうそう、そんなサミュエルくんにゲストがきているよ!」

「なに?」


 更地となった屋敷から、なにも見えず、感じなかったはずのカリアン・ショーンとリーゼ、クリーが現れた。


「リーゼ!」

「クリーママ!」


 攫われたふたりが無事である姿に、とりあえずは安堵するが、まさかこの場にサムの祖父カリアンまで来ているとは思わなかった。


「おじいちゃん……あんたもかよ」

「申し訳ありません、サム。私には私のすべきことがあるんです」


 先日、会ったときと変わらない笑顔を浮かべる。

 サムは、少しだけ期待していたのだ。

 マクナマラがそうであるように、カリアンもスカイ王国に来て暮らすという選択肢があるんじゃないか、と。

 しかし、残念ながら、彼は彼の道を進んだ。その道は、サムの道と一瞬だけしか交差しないようだ。


「待っていてください、リーゼ。大丈夫、すぐに助けてあげますから」


 サムがリーゼに微笑むと、彼女はなにか言おうとする。だが、喋れないようになにかされているのか、言いたいことが伝わらなかった。


「クリーママ、すぐに救い出そう。それまで、待っていてくれたまえ。ははははっ、僕が死ぬわけあるまい、遅れは取ったが、今度こそ、君とお腹の子を救ってみせる」


 隣で、同じく喋れないはずのクリーと会話しているギュンターを見て、こんな時ではあるが「負けた」と少し思ってしまった。


「さて、感動的な再会も果たしたことなので、もう思い残すことはないかな?」

「ふざけんな」

「おや? どうやら、サミュエルくんはご不満のようだ。ならば、どうする? 僕に手も足も出なかった癖に、また戦うとでもいうのかい?」

「安心しろ、次は殺してやる」

「ははははは! サミュエル・シャイト、ギュンター・イグナーツ、遠藤友也、ゾーイ・ストックウェル、霧島薫子のたった五人で何ができる? それとも、お得意の変態芸でも見せて、僕を笑い殺してくれるのかな?」


 挑発するつもりなのか、サムたちを小馬鹿にする言動を取るアルフレッドに、サムが鼻で笑った。


「おい、ギュンター、友也、お前たち、馬鹿にされてるぞ。なんか言ってやれ」

「待ってください、おかしい。なにしれっと、サムが入っていないんですか?」

「まちたまえ。僕は変態じゃない、ビンビンさ!」

「そんなことはどうでもいい! まさかとは思うが、奴は私まで変態扱いしているじゃないだろうな!」

「私も勘定に入っている気がするんだけど! さすがに抗議するよ!」


 ぎゃーぎゃー、騒ぎ始める五人に、「これだからスカイ王国民は」とアルフレッドが嘆息した。

 次の瞬間、全員が示し合わせたように動いた。


 サムとギュンターが、リーゼとクリーに向かって走った。

 ギュンターが囚われのふたりを結界で覆うと、カリアンが弾きと飛ばされる。


「ほう」


 それぞれの妻を抱き抱えて、サムとギュンターはカリアンとアルフレッドから大きく距離を取った。


 友也はアルフレッドの背後に転移し、貫手で胸を貫く。


「変態! そのまま抑えていろ!」


 ゾーイが消えるような速さで剣を抜き、アルフレッドの首を斬り落とした。

 再生するだろうが、人質救出を最優先しているため、余計なことをされなければそれでいい。

 ゾーイは、地面に落ちたアルフレッドの顔を思い切り蹴り飛ばした。


「今です! エヴァンジェリン様!」


 薫子が叫ぶと、「おうっ!」と彼女の影から、魔王エヴァンジェリン・アラヒーが飛び出す。


「死ねや、おらぁあああああああああああああああああああ!」


 漆黒のブレスが、元ラインバッハ男爵家の邸跡ごとカリアンとアルフレッドを飲み込んだ。





 〜〜あとがき〜〜

 とりあえず、先制攻撃です!


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 よろしくお願い致します!

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