64「ギュンターの決断です」③





 ギュンター・イグナーツいや、創造神は、戦神と虹の女神に一瞥すると、淡々とした声を出した。


「平伏す必要はない。それよりも、管理神は呼びたまえ」

「恐れながら、女神は伏せっています」

「管理神が伏せる? なにがあった?」

「――ウルリーケ・シャイト・ウォーカーを他の世界に転生させました」

「なに?」

「他にも、レプシー・ダニエルズとその家族も同様に」

「……なるほど。君たちは君たちなりに、あの哀れな少女の対策をしていたようだな」

「――は」


 ふむ、と創造神は腕を組む。

 人として生きている間は、創造神としての力はない。

 あくまでも少し優秀な人間くらいだ。それでもいくつかの制約の中で生きてきた。

 まさかウルやレプシーが他世界に転生しているとは思っていなかったのだ。


「では、管理神本人に話を聞こう」

「しかし、女神は」

「――黙れ」


 氷のように冷たい声に、戦神は押しつぶされた。


「君の意見は聞いていない。僕は、妻が攫われたんだ! お腹にいる子供も! 大切な妹も、その子供も! わかるかい? 僕は怒っているんだよ?」

「申し訳、ござい、ま、せん」

「二度目はない。早く、案内したまえ」


 立ち上がった戦神は、虹の女神を伴い空間に門を開くと、創造神を招く。

 門の中は、一般家屋が建っていた。

 創造神は無遠慮に玄関を開けて中に入ると、畳の上に布団を敷いて眠りについている女神の枕元に立った。


「起きたまえ」


 短い言葉を吐き、指を鳴らすと、女神に神力が注ぎ込まれる。

 その力により女神が全盛期の力を取り戻し、驚き、跳ね起きた。


「な、なにが」

「管理神。君の管理する世界に堕ちた哀れな少女と、それらに関わる者たちの情報を提示したまえ」

「か、創造神様!?」

「早くしたまえ」

「……わ、わかりました」


 混乱した女神だったが、創造神に言われるまま情報を複数個提示する。


「――なるほど。人間である今の僕には女神は殺せない。サムは……やはり僕の思っていた通りの存在だったか。しかし、まさか、ウルリーケの病が哀れな少女の仕業とはね。封印はもう解けかかっている。封じている者、ああ、彼女か。結界ではなく、術者が限界なのか」

「そ、創造神様」

「なにかな?」

「私たち管理神は、世界への干渉は最低限しかできません」

「知っている」

「未来もわかりません」

「無論だ。人の未来は人が決めるのだからね」

「……奥様のことはお詫び申し上げます」

「誤解しないでもらおう。妻が攫われたことに怒ってはいるが、君たちなどどうでもいい。アルフレッド・ポーンもそうだ。僕は僕自身が許せない」

「しかし、御身は創造神ですが、人として転生しています。あれらを相手に限界があります」

「わかっている。いや、今は理解した。そうだね。僕には彼らに対処ができない」

「本来なら、いくら創造神様でも彼ら、彼女たちの情報を見ることはできません。他ならぬ創造神様がお決めになったことです」

「それも理解している」

「創造神様が決めたルールに違反した以上、創造神様でも罰を受けます」

「覚悟の上だ」


 管理神の言葉に、情報を見ながら淡々と返事をしていく。


「情報はこれだけかな?」

「はい。我ら管理神は、あくまでも世界を管理するだけの神。管理世界のすべてを知っているわけではないのです」

「承知している。すまなかったね、私は地上に戻る。引き続き、世界を管理したまえ」


 情報全てに目を通した創造神は、地上に戻るため管理神たちに背を向けた。


「お待ちください!」

「なにかな?」


 創造神の背に、管理神が声をかけた。


「創造神様……よろしいのですか? あなたは人間を愛せなかった。ゆえに人間となって、何度も世界を転生し続けました。しかし、今、一時的にですが創造神に戻ってしまいました。このまま地上に戻れば、二度と転生はできません。ペナルティによっては、創造神に戻れず人として死ぬ場合があります!」

「――構わない。私は、この世界で心から愛しいと思う大切な人たちと出会えた。初めて人を愛することができた。もう十分だ」


 そう言い残した創造神は、そのまま歩き始める。

 管理神、戦神、虹の女神は、創造神の背中に礼をした。


「――良き人生を」

「ありがとう」


 創造神は、一度だけ振り返って礼を言うと、地上に戻ったのだった。






 〜〜あとがき〜〜

 ギュンターは創造神ですが、創造神としての力は使えません。

 また情報を得たのは、クリーたちを取り戻すためです。

 やってはいけないことだと理解していますが、愛する人を救うためにできることすべてをした、だけなのです。


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