60「最後の聖女です」②
「先ほどから、ギュンター様は妻に対して随分な物言いですわね。――今宵は念入りにおしおきですわ」
「――ぴっ。い、いやだな、ママ。こ、これは不器用な僕の愛情表現なのさ!」
ノリノリだったギュンターではあるが、クリーが恐ろしい笑みを浮かべて舌舐めずりするのを見て、冷や汗をダラダラ流しながら言い訳をした。
かつてのギュンターならば、口が裂けても、それこそ物理的に裂けたとしてもクリーに対して愛情表現などとは言わなかっただろう。調教の結果が現れていると見える。
「同じ人間とは思えないほど不愉快な奴らだね」
「ふん。女性を利用し、子供に愛情を与えるどころか脅すような父親に不快に思われようが痛くも痒くもないね」
「オクタビアは利用されるだけ僕に感謝すべきだ。ヴァルザードたちも僕の玩具でありながら、歯向かうから痛い目を見るのさ」
「僕こそ、不愉快だ。さて、話も終わったのだから、そろそろご帰宅願おうか。僕は妻とティータイム中でね」
「舐めたことを」
アルフレッドは、苛立ちを隠さぬまま、もうギュンターと会話しても意味がないと理解した。ならば、当初の予定通りに聖女とは思えないが聖女クリーを連れていくだけだ。
アルフレッドの右手がクリーに伸びる。しかし、不可視の壁によって、右腕は阻まれ、ひしゃげた。
「レディーに許可なく触れるのはマナー違反だよ。君がラッキースケベを生業とする変態魔王の同業者ならば、仕方がないかもしれないが、そうではないだろう? 弁えたまえ」
「……ほう。不仲な夫婦と聞いていたが、情はあるらしい」
「べ、別に妻だからって守ってあげてるんじゃないんだからね!」
「……どういう意味かな?」
「さすがギュンター様! ツンデレ具合がたまりませんわ! うへへ!」
急にツンデレったギュンターに、アルフレッドは理解ができず眉を顰め、クリーは喜んでよだれを垂らした。
「君たちの言動は理解できない。だが、もういい。君の結界もすべて対策済みだ」
「なにを」
いつの間にか元通りになっていたアルフレッドの右腕が、再びクリーに向かって伸びると、厳重に張り巡らされているはずの結界が音を立てて崩れた。
「――なに」
そしてアルフレッドの腕が、クリーのか細い腕を掴む。
刹那、常人ならばそれだけで死んでしまいそうなほど強い殺気がギュンターから放たれた。
彼は目にも留まらぬ速さで動くと、クリーの腕を掴むアルフレッドの腕を左手で掴み、へし折った。
「――彼女は僕にとって最愛の女性だ。無遠慮に汚い手で触らないでもらおう。殺すぞ」
ギュンターはアルフレッドの腕を腕力だけでクリーから引き離すと、右の拳を顔面に叩き込んだ。
アルフレッドは吹っ飛び、寝室の壁に激突した。
〜〜あとがき〜〜
クリーさん「祝! ギュンター様がデレましたわ! 本日は記念日として祝日ですわ!」
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よろしくお願い致します!
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