55「ギュンターと教皇です」①
ギュンターは、サリナス家の子供たちと存分に戯れ、夕食を一緒に作り、一緒にお風呂に入って、子供たちを寝かしつけたあと、一応軟禁部屋とされる一室でちくちくと裁縫に勤しんでいた。
背後には、オクタビアが監視のつもりか腕を組んで立っている。そんな彼女もエプロンをしているので、殺伐とした雰囲気ではない。
「ヴァルザードくんたちは、とても可愛くていい子だね」
「あら、ありがとう」
「先ほども温めたミルクをヴァルザードくんが持ってきてくれたよ。こっそり廊下から覗き込んで手を振る姉妹たちも可憐だ」
「……そうね」
「毎晩、寝る前にはクリーママがしぼ――温めてくれたミルクを飲むのが日課だったが、今日も変わらず眠れそうだよ」
「あ、そう」
おかしな言葉が聞こえたような気がするが、オクタビアは無視して素っ気ない返事をする。
ギュンターは、裁縫をする手を止めて、彼女に振り返った。
「それだけに、彼らを案じている」
「――なんですって?」
不意にかけられた言葉に、オクタビアの表情に怒りが宿った。
「このような場所に引きこもり……いや、事情があるのだろうから、とやかく言うつもりはないが、女神の復活はいただけない。なぜ女神を復活させようというのかな?」
「私は女神になり代わり――」
「やめたまえ。それは君の答えではないはずだ。もっと深く考えたまえ。頭ではなく、心の深いところでしっかり考えなさい」
「……女神を復活させて、させて」
「ヴァルザードくんたちは人工魔王ととはいえ、まだ子供だ。祝福されるべき命だ。健やかに育ててあげるのが大人の、母親の役目ではないのかな?」
優しげな言葉で諭しながら、ギュンターは椅子から立ち上がる。
「わ、私は、私は子供たちを」
見るからに動揺と困惑、混乱と考えをまとめることができずにいるオクタビアを案じ、ギュンターが手を伸ばす。
「――そこまでにしてもらおうかな」
しかし、ギュンターの手がオクタビアに届く前に、無粋な声が響いた。
「申し訳ないが、妻を拐かすのはやめていただきたいね」
音もなく部屋に現れたのは、二十歳ほどの、白づくめの青年だった。
ギュンターは特に驚くことはなく、青年を目だけで一瞥すると、オクタビアに言葉をつづけようとする。
しかし、青年がオクタビアの肩を軽く叩くと、彼女は意識を失い崩れ落ちた。
「おっと」
「……なるほど。彼女と接し、洗脳に近い術式をかけられているので誰かが裏で操っていることはわかっていたが、神聖ディザイア国の人間だったようだね」
オクタビアを抱きとめた青年の顔に、驚きを浮かべた。
「僕を知っているのかな?」
「君になど興味はない。だが、その聖力の質、そして女神を狂ったように信仰する人間特有の臭いが君はあまりにも強い。不快だよ」
「臭いとは初めて言われたね。他の面々もそうなのかな?」
「いや、君だけだよ。まるで腐った汚物のようだ。すまないが、僕に向かって口を開かないでほしい」
誰にでも変わらず笑顔と紳士な態度で接するギュンターだったが、目の前の青年――教皇には、酷く冷たい態度とあからさまな嫌悪を表に出した。
〜〜あとがき〜〜
コミカライズ6話公開されました!
コミック1巻が2月末日に発売となります!
詳細はまた追々!
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