お正月記念「ウルリーケ外伝12 大陸統一」





「――暇だ」

「暇だね」


 ウルリーケ・シャイト・ウォーカーの転生体ウルリーケ・ファレルと、元魔王レプシー・ダニエルズは学園の理事長室でぼけーっとお茶を飲んでいた。

 ふたりの再会から一年が経過していた。


「それにしても、暇だ! 暇すぎる!」

「私も同感だ。最近、妻が育児に忙しくて構ってくれないし、もちろん私も育児には積極的に参加するが、昼間は理事長としての責務をおこなわなければいけないので家にいられない。よって暇だ」


 ウルとレプシーは暇を持て余していた。

 それは、やることがないというだけではなく、すべてやり尽くしてしまったのだ。


「まさか、たった一年で大陸統一できるとは思わなかったよ。そもそもしようとも思っていなかったんだが、結果的に戦いが戦いを呼び、大陸は平和を手に入れた」

「あとは、私とレプシーでどっちが最強か決着つけるだけだな」

「私の負けでいいよ。君の伸び代を見ていると、今はさておき、将来的には越されてしまうだろうね」

「ふん。どうだか」


 ウルとレプシーは天下を取っていた。

 比喩ではなく、文字通り、大陸を統一したのだ。


 きっかけは、ウルとレプシーが魔法環境を改善しようとしたことだった。

 攻撃魔法、とくに炎属性が優遇される環境がおかしいと説きはじめたふたりに、国の老人たちが圧力をかけてきたのだ。

 些細な嫌がらせ程度の始まりだったが、次第にエスカレートして、まずレプシーが切れた。

 ちょうどレプシーの妻アイリーンの妊娠が発覚したころ、ネチネチとした嫌がらせをされ、「妻になにかあったらどうするんだ!」と大激昂したのだ。


 国の長老共は殺されさえしなかったが、レプシーの魔法によって、住居を失った。

 そこで諦めておけばよかったのに、仲間を募って命を狙い出したのだ。

 行動を共にしていたウルも巻き込まれ、こちらの世界の魔法使い程度にふたりが負けるはずもなく撃退。

 今後、面倒なことが起きないよう憂いを断つために、背後の奴らを一掃しようと決め、物理的に全員潰した。


 すると、国が若干混乱してしまう。

 すぐに王家な乗り出し、内々に事を収めようとしたところで、内乱が発生した。

 王族がレプシーに助けを求め、王都を離れて、ウルの故郷ファレル男爵領に移った。


 問題はまだまだ続く。

 レプシーの義理の家族に居場所がバレ、妻アイリーンと子供たちを誘拐されそうになった。

 同時に、その一族は隣国であり、決して友好的な国ではなかった。

 いくつか難癖をつけるも、王宮に王族がいないため返事ができずにいるといい機会だと攻めてきたのだ。


 戦争になる、と思われたのだが、敵国の軍勢をウルとレプシーのたったふたりで壊滅され、ふたりの名は大陸中に轟いた。

 そこからが大変だった。

 魔法はすべて平等であり、優劣はない。あるとしたら使い手にあると、断言するふたりに多くの魔法使いが挑んできた。

 ときには国まで巻き込んで代表試合をしたり、戦争一歩手前になったりもした。


 ウルとレプシーが相手を倒し、名を上げるたびに、政治的にいろいろあり国の領土が広がっていく。

 大陸の三分の一を領土にした頃、国王から直々に「もう管理できないから勘弁してください」と泣きが入った。


 ウルたちはあくまでも売られた喧嘩を買っていただけだったので、不服だったが、しばらくおとなしくする事を約束した。

 約束したの、だが。

 なんと古に封印されていた魔王が復活したのだ。


 魔王なんていたのか、とレプシーは呆れ、ウルは目を輝かす。

 魔王は大陸支配を目論む、いくつかの国を吸収し、勢力を拡大していくが、「そんなことは関係ない!」とばかりに、たったふたりで乗り込んできたウルとレプシーに圧倒的な力量差を見せつけられて消滅した。


 復活した魔王さえ勝てないふたりに、大陸中が平伏したのだ。

 ウルかレプシーを王にという声が大陸中に響き渡るが、そういう面倒なことが望まないふたりは、自国の王にすべてを丸投げして、元の生活に戻った。


 たった一年の間に山のようなイベントを過ごしたので、燃え尽きていたのだが、すれも一ヶ月程度のこと。

 すぐに暇を持て余していたのだ。


「大陸統一を果たしたから、今度は未知なる場所を求めて冒険してみようかな」

「私たちが知らないだけで、まだ大陸には不思議が溢れている可能性はあるね」

「じゃあ、さっそく!」

「いや、駄目だよ」

「なぜ!?」

「今日はダンスのレッスンが入っている。ミシャ殿から必ず参加するようにとお願いされているのでね」

「うげ」


 理事長室を飛び出そうとするウルをレプシーが魔法で拘束する。

 いずれ実力で抜かされるだろうが、今はまだレプシーのほうが上だった。


「グロリア殿にも、君がレッスンから逃げ出してばかりだから捕まえてほしいとお願いsれているのでね」

「離せー! 前世でも淑女らしいことなんてしてこなかったんだ、今更してたまるかー!」

「やれやれ、私も人のことは言えないが、君も君で自由を好むようだね。だが、駄目だよ」


 暇を持て余していたふたりだが、暇な日常を愛してもいた。

 大切な家族と友人たちがいる。

 その当たり前なことが幸せだと知っているから。






 〜〜あとがき〜〜

 明けましておめでとうございます!

 本年も何卒よろしくお願い致します!


 これにてウルリーケ外伝は終わりです。

 サクッとしすぎて申し訳ないです。でもね、まだ出番はあるんですよ。

 楽しみにしていてくださると幸いです!


 それでは、皆様にとって本年が良い年になりますように!




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