20「聖女の孫でした」②





「はあ!? 俺のおばあちゃん聖女なの!?」

「はい。女神様に代々お仕えしてきた巫女の家系の中で、唯一聖女となった方でした。それはそれは美しく、しかも可憐で……若かりし私はもうメロメロでした」

「急に惚気話が始まっちゃった!?」


 そういえば、母方の祖母の話は聞いたことがない。

 母が祖父母の話をしなかったのは、よい思い出がないからだと思っていた。だが、実際は実の両親ではなく、本当の家族のことはあまり覚えていないため話せなかったのだろう。


「若い頃の私は聖騎士でしてね。若くして剣の才能を師に見出され、戦いを重ね、力をつけていきました」

「剣の使えない俺とは全く逆だね」

「はははは。そのようですね。一応、誤解のないよう補足しますが、戦いと言っても魔族だけを相手にしているわけではありません。大陸西側はモンスターが多く、東側と比べて強い。国を守っていれば自然と力がつくものです。残念ですが、つかなければ死んでしまいますからね」


 大陸西側で人間だけの国は珍しい。

 神聖ディザイア国こそ昔からあるが、人間限定の国は創られては消えていく。

 魔族がなにかしたからではなく、人間だけでは大陸西側で生活ができないのだ。

 そういう意味では、神聖ディザイア国は完全に独立した国でありながら、歴史が長いことは驚きであり、すごいと思う。


「ここだけの話ですが、実を言うと、枢機卿になったのも聖女であった妻と結婚するためでして」

「あらやだ素敵!」

「聖女は未婚と決まっていたのですが、枢機卿になってちょちょいと法を変えたのです」

「うわぉ」

「いやぁ、当時が懐かしい。文句を言ってくる奴らは、全員ぶっ飛ばして逆さ吊りにしました」

「あらやだ過激!」


 少し顔を赤らめて過去を懐かしむ祖父。

 お酒が入っているせいか、カリアンは饒舌だった。

 いや、きっとそれだけではない。

 生き別れていた娘と再会し、孫ふたりとも会えた。

 そのことが嬉しいのだろう。


「この国は面白いですね。スカイ王国とは敵対していませんが、魔族と交流がある以上、神聖ディザイア国の人間には関わりたくないと思うのが普通のはずです。しかし、クライド殿をはじめ、誰も気にせず私やマクナマラと接してくれます。メラニーも私が父親だとわかったところで居心地の悪い思いをしないですむでしょう」

「ま、まあ、神聖ディザイア国も面倒な国だとは思うけど、この国にはもっと面倒なのがわらわらいるから」

「そのようですね。あまり言いたくありませんが、サミュエルくんたちの愉快なお話は神聖ディザイア国にも届いていますので、ほどほどに」

「……変態どもが悪いんだ!」

「女体化してふりふりの衣装を身につけている子に言われても説得力がありませんねぇ」

「しまった! そういえばまだ女体化したままだった!」


 成人を迎え、祖父と亡き師匠の残してくれたボトルを開ける場面で、女体化アイドル状態なのはいかがなものかと悩む。

 女体化を解いてもらうのも、着替えるのも忘れていた。


「あまり気にしませんよう。スカイ王国らしくていいではありませんか」

「スカイ王国らしいっていうのがおじいちゃんの中でどんなことになっているのか気になるけどね!」


 サムとカリアンが笑う。

 少しだけ、いつか祖父と戦う日が来ると思うと残念に思う。

 だが、戦う理由がある祖父と、同じく戦う理由があるサムとでは戦いは避けられないだろう。


「君には多くの血が流れています。スカイ王国王家の血、つまり勇者の血です。そして神聖ディザイア国聖女の血も。とどめとばかりに、最強の魔王と恐れられたレプシー・ダニエルズの後継者でもある。おじいちゃんは怖いです」

「またまたそんな!」

「様々な血と力を受け継ぐ君が、今後、どのようなことをしていくのか……遠くから見守っています」

「……うん。ありがとう」


 こうしてサムはカリアンと短い時間だったが、祖父と孫としての時間を過ごすことができたのだった。





 〜〜あとがき〜〜

 聖女のグランドマザーに関してはまたの機会に触れさせていただきますわ!


 新作も何卒よろしくお願い致しますわ!

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