16「女神についてです」②
まだ大陸が混沌としていた遥かな古の時代。
そこには魔王もおらず、今のような大きな国もなく、小国とさまざまな部族が土地を巡って戦いばかりしていた。
幾度となく戦争が起き、多くの命が失われ、誰もが嘆いた。
英雄と呼ばれる者が立ち上がっては、戦争をなくすための戦争を始め、犠牲者が増えていく一方だった。
それでも戦いは終わらない。
世界が疲弊していた、そんなときだった。
――別世界から勇者と聖女が遣わされた。
小さな国に召喚されたのは姉妹だった。
まだ十代半ばでありながら、姉は勇者として剣を持ち戦い、妹は聖女として多くの人を治療した。
小国は次第に力をつけ、周辺の小国を吸収し、次第に大きな国へ発展していく。
しかし、その代償に、勇者の心は疲弊していた。
無理もない。まだ十代の少女が、それも平和な異世界に暮らしていた少女が剣を握り戦い、命を奪うなど精神がすり減ってしまう。
だが、勇者は戦い続けた。
人間も、魔族も、平等に斬り伏せてきた。
そして、ようやく大陸すべてではないが少女たちの手の届く範囲で戦争が終わった。
姉妹は喜んだ。
元の世界に帰れずとも、この世界で、この国で、みんなと手を取り合って生きていこう。そう決意したのだ。
だが、姉妹の幸せは続かなかった。
いや、あっという間に終わったと言ってもいい。
聖女である妹が魔族の手によって殺害された。
理由は定かではないが、聖女に命を助けられた魔族が恋慕した結果の凶行だったという。
妹を失い、異世界でひとりきりになった勇者は、妹のためにも人々を愛した。魔族でさえ愛した。
しかし、魔族たちは人間を『劣等種』と見下し始めた。
魔族のほうが力があり、寿命もながい。だが、今まで平等だったはずだった。
人間と魔族が結婚し、子供を産み、家庭を築いてもいた。
なのになぜか、魔族たちは人間を排除しようとしたのだ。
結果的に、勇者たち人間は魔族と別々の道を歩んでいくことになる。
平和な国から追い出され、路頭に迷いながら新しい国を手に入れた。
すると、今度は、魔族が人間の国を滅ぼさんと襲いかかってきたのだ。
勇者は諦めた。
どれだけ歩みよろうとしても、魔族が人間と共存するつもりがないのだ。
ならば――排除するしかない。
勇者は剣を取り、戦った。
獣人の首を刎ね、人魚の首を刎ね、亜人の四肢を切断し、各種属の長の首を晒した。
勇者の強さを知っていたはずが、自分たちに向いたことで本当の意味で理解した魔族たちは降伏を訴えたが、勇者は取り合わなかった。
すると勇者たちに他の小国の人間たちが加わっていく。
国の魔族を排除し、勇者と共に戦い、魔族を大陸西側に追いやったのだ。
戦いを重ねた勇者は、心だけではなく肉体も限界だった。
そこで彼女は、自らを犠牲にして人々に戦う術を与えた。
もともと人間にも備わっていた魔力やスキルを強化させたのだ。
そして、勇者の命は尽きた。
――だが、それでも争いは終わらない。
今度は勇者の代わりに誰が上に立つかで戦争が起きた。
何年も戦争が続き、再び人々が絶望した頃、亡くなった勇者が女神として降臨したのだ。
女神は無用な戦いを続けている愚か者たちに天罰を与え、国を、民を全て平等に焼き尽くした。
自分を信仰する人々に、聖力を授け、新たな力を与えた。
女神を頂点に置く――神聖ディザイア国の前身となる国が生まれ、大陸の統一と平和に挑んだ。
だが、魔族側には魔王が生まれていた。
魔王と女神は戦い、多くの魔族と魔王を犠牲にし、女神は封じられた。
それでも人間は土地と力を手にし、魔族という脅威はあるものの、人の戦いは終わらないものの、少しずつ平和を目指して歩んでいくことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます