51「四天王が現れました」
「君たちは何をやっているんですか! 獣人、竜、準魔王、魔王が揃いも揃って女体化とか、恥とかないんですか!?」
褐色の肌に、巌のような体躯、頭部には角を生やしたオーガ族の魔王ダグラス・エイドは、肌の色をそのままに、すらりとした超人に美人なオーガに変貌を遂げていた。
少しジェーンの面影があるように見える。だが、ジェーンが息を呑むような美しさを持つのに対し、ダグラスの場合は愛嬌のある美人だった。
ダグラス――いや、ダグ子は「ははははははは!」と豪快に笑う。
「ダグラスくん。君は女体化することに抵抗がなかったんですか!?」
「ま、長い人生、一度くらい女体化してもいいだろう」
「受け入れる度量がすごい!」
腕を組み、あっけらかんとそんなことを言うダグ子の懐の深さに友也は不覚にも関心してしまった。
「それに、友人の頼みだしな!」
「あの変態を友人と迷いなく言える姿がかっこいい!」
「はははははっ、お前だってギュンターと仲がいいじゃないか」
「どこがですか!」
「喧嘩するほど仲がいいってな!」
「ものすごく不本意です!」
「僕だって不本意だがね!」
友也もギュンターも、最近は一緒に行動することが多いのだが、友人であるとは認識していないようだった。
ダグラスがやれやれ、と肩をすくめる。
なにかと誤解を生みやすく、恐れられている友也と魔王であろうとなんだろうと自分を崩すことのないギュンターならよい関係を築けると思うのだが、まだ先のことのようだ。
「ボーウッドくん。君も、一度は魔王を目指した男なのに、気づけば女の子に……というか、獣人の女性はそうじゃないでしょう! なんですか、その媚びた女体化は!」
「俺が望んでこうなったわけではない!」
雄々しい獅子の獣人ボーウッドは、なぜか猫耳を生やした金髪ショートカットの美少女になっていた。
獣人も女性は獣に近い場合が多く、魔王ロボのような人間に近い個体は少ない。
人間に近い個体の方が力を持つと言われているが、真偽は不明だ。
ただ、もともと獣に近かったボーウッドだが、なぜ女体化すると人に近くなるのかわからない。
エヴァンジェリンの呪いに問題があるのか、それともサムに付き従うようになってから成長したのか。
とにかくボーウッド改め、ボー子はフリル付きのメイド服を装備していた。
「俺だってしたくて女体化したわけではない! だが、魔王ダグラス、魔王エヴァンジェリン、おまけに竜たちに包囲されて、ちょっと強くて雄々しいだけのイケ獅子にどうしろというのだ!」
「ちょいちょい自画自賛が入っているのが腹立たしいですねぇ」
「こっちだって、女体化したら人に近くてびっくりしているんだ! 俺は放っておいてくれ! 兄貴が来るまでに心の整理をしておきたいんだ!」
「あ、はい、すみません」
真剣に女体化と向き合っているボーウッドに気圧されて、友也はつい謝ってしまった。
悩んでいる彼にこれ以上なにか言うのも酷なので、一番女体化するとは思わなかった青牙に視線を向けた。
「青牙くんはまともだと思っていましたのに」
「母上が……お前は女体化しないのか? と残念そうにされたのなら、一度くらい女体化してみせるのが良き息子だ!」
「違うと思います!」
そう叫ぶのは竜王の息子青牙――だったはずの幼女だった。
青い髪をツインテールにした、ランドセルが似合いそうなお年頃だ。
ミニスカートのチャイナ衣服のような衣装を身につけた彼は、プルプル震えて叫んだ。
「ダニエルズ兄と変態に母上がそそのかされたせいで! この姿を見てみろ! 高貴な竜のはずが、こんな可愛らしい幼女にしよって! もう、もうっ! 魔法少女になるしかないではないか!」
「落ち着け! そこで魔法少女になろうとする君も十分おかしいですから!」
魔法少女好きであることは知っていたが、女体化したのをいいことに魔法少女デビューを企む青牙改め、青子にがっかりする。
彼もかつては生真面目で頑固な竜だったが、スカイ王国にいい感じに馴染んでいるように見えた。
自分に関係なければ、楽しそうでなにより、とすませるのだが、今回は自分の女体化もかかっているので放ってはおけない。
とりあえず、しばき倒す相手がひとり増えた。
「レームくんは言うまでもなく」
「レプシー兄さんも女体化くらい笑ってしただろう」
「いや、しねーだろ」
実兄を神格化している、ある意味神聖ディザイア国もびっくりなほど狂信者なダニエルズ兄妹の兄の方、レーム。
黒尽くめの青年だった彼だが、今はすっかりゴスロリ美少女に変貌を遂げていた。
髪色や、冷たい雰囲気はそのままだが、顔の造形は妹のティナと瓜二つだ。
レーム改め、レム子は早い段階でギュン子と組んでいたと知っている。
「俺の女体化は魔王遠藤友也、貴様への叛逆に意味もある」
「ほう」
興味深いことを言い出したので、耳を傾けてみる。
「レプシー兄さんの親友だからと従っていたが、よく考えれば、あの素敵な兄さんが、貴様のような変態を親友にするだろうか?」
「ぶっ飛ばすぞ!」
聞くだけ無駄だった。
「レプシー兄さんの親友を名乗るなら、俺のお兄ちゃんになるくらいの根性を見せてもらおう!」
「なりたくねー!」
無事に女体化を果たし、四天王にまでなってしまった知人たちの変貌に友也は冷静を装いながら、
(僕が女体化したらどんなことになるのか想像できなくて怖い!)
内心では心臓バックバクだった。
〜〜あとがき〜〜
敵サイドではない四天王が現れるとは流石に思わなかったでしょう?
おほほほほほほほ!
……はぁ。
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