47「人魚さんと会いました」②
「失敬な少年だねん。僕は由緒正しい人魚だよん。それも南の海の人魚を統べる長でだよん?」
「無駄に個性ある話し方してんじゃねーよ!」
ざばっ、と音を立てて陸に上がると、半魚人――本人曰く人魚が、身体をぶるぶると振るわせて水を弾く。
「人魚を名乗るなら、水の中にいろよぉ」
「なにを言うのん、少年。人魚も気合と根性があれば陸で生活できるのねん」
「気合と根性でなんとかなっちゃうのかー」
「ただん、あまり陸で生活するメリットがないのねん。僕たちは海の妖精と呼ばれるん、存在だものん。水が全てなのん」
「あ、はい」
そこまで会話をすると、半魚人がじぃっとサムとメルシーを見つめる。
「君はおかしな魔力をしているのねん。その子も人間ではないのねん。おそらく竜でしょん?」
「うん! メルシーはウォーカーさんちでお世話になってるシャイトさんちの元気な竜だぞ!」
「良い子なのねん。僕は、バルト。先ほども言ったけどん、南の海の人魚を統べる長ねん」
「名前かっけぇ!」
「で、おかしな魔力の少年のお名前はん?」
「おっと、失礼。俺はサミュエル・シャイトです。この町で領主をすることになりました。あなたたち半魚人に漁師がお世話になっていると聞き、ご挨拶に」
「半魚人じゃないのねん。人魚なのねん」
握手を求めてきたので、サムは応じた。が、ぬちゃぁっとした感触が手のひらに伝わり、頬が引き攣る。
「あの、すっごくぬるぬるするんですけど」
「おっと、ごめんなのねん。人魚は陸に適応しようとすると粘液を覆うのねん。しばらくすると乾くのねん」
「なるほど。乾かないための機能が備わっているんですねぇ」
「そうなのねん。ところで、サミュエル少年」
「どうかサムと呼んでください」
「僕のこともバルトと呼んでほしいのねん」
「じゃあ、バルトさんで」
「うん。それで、サム少年は、人間ではないのねん? 感じは人間の名残が残っているねん? でも、違うのねん。僕たちに近い、魔族なのねん?」
南の海の人魚を統べる長を自称するだけあって、バルトはサムが人間でないことを見抜いた。
「一応、魔王やってます」
「――おお! 君が噂に聞いていたレプシーくんの後継者なのねん? どうりで魔力が持ていると思ったねん」
「レプシーと知り合いなんですか?」
「うん。彼がまだ人だった頃に、ちょっとねん」
「へえ」
「だからレームくんとティナくんも知っているのねん。彼らも準魔王になったと聞いているねん? 相変わらず、兄さん兄さん言っているのねん?」
「言ってます。最近じゃあ、兄力だとかいみわからないことまで」
「元気そうでよかったねん」
「元気すぎる気もしますけどね!」
バルトはずいぶんと長い時間を生きているようだった。
「ところでん、サムくんは新しい領主と言っていたけどん……この町の人のことをん」
「大丈夫です。前の領主のようなことは絶対にしません。といっても、婚約者が切り盛りしてくれるんですけどね。とても優秀な子なので安心して良いです」
「それはよかったのん。じゃあ、蒸留所のドワーフたちともあったのん?」
「ええ、先ほど会いました」
「それはよかったのん。この町はとても苦しんでいたのん。僕たちは漁しか手伝えなかったのんだけどん」
「半魚人さんたちには感謝しています。漁師たちの命を救ってくださったとも。どうもありがとうございました」
「いいのん、いいのん。海に生きる者として当然のことなのねん」
理想の人魚じゃなかったのは残念だが、バルトはいい人だと確信した。
彼が海に住んでいるのなら、大きなお世話かもしれないが、この町の、この国の住民にならないか打診してみようと思った。
その時だった。
「もうっ! お父様ったら、急におでかけになって! 人間さんたちと交流を深めるのはかまいませんが、悪い人間に見つかって剥製にされても知りませんからね!」
突然、海の中から少女が出てきた。
水色の髪と、同じ色の鱗を持つ魚の尾のような下半身。そして上半身は、布を胸に巻いた人の女性だ。
「人魚さんだ!」
諦めていた人魚の登場に、サムは感極まって海に飛び込んだ。
「なんですか、この子! ちょ、なにこの子! 魔力すごい! こわ! 溺れているのに笑顔なのこわっ! ていうか、この子助けた方がいいんですか!?」
実は、あまり泳ぐことが得意でなかったサムは、テンション上がりすぎて溺れかけた。
〜〜あとがきですわ〜〜
サム、半魚人からの人魚でテンションマックスですわ!
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