33「視察の始まりです」③
「りょ、領主様、まずは、お屋敷の方からご覧になってはいかがでしょうか? しばらく滞在されるとお聞きしていますが、やはり宿屋を拠点にするわけには」
「蒸留所に魔族がいることはわかっているので隠さなくていいですよ」
ガインは再び固まった。
しばらくして、膝を突き、大きな声を出して平伏した。
「おみそれ致しましたぁあああああああああああ!」
「いや、そういうのいいから。とりあえず立って、ほら、椅子に座って」
面倒なので、サムはガインの腕を掴んで無理やり椅子に座らせた。
「蒸留所にいるのはドワーフに違いないな?」
ゾーイが尋ねると、ゆっくりガインは首肯した。
「やはりな」
「疑問なのは、前領主はご存知だったのですか?」
「いいえ、前領主様はしりませんでした」
「なんて愚かな」
「前領主様は売上にしか興味はなく、品質も、従業員も気にしたことはございません。責任者は私めになっていますが、所長として現場を動かしているのはドワーフ殿です」
聞けば、前領主はウイスキーに興味がなく、ワイン派だったようだ。
なによりも、金と女が一番のようで、蒸留所でドワーフが働いていることなど考えもしていなかったようだ。
「前領主は死んで当然の人間でしたわね。蒸留所はこの町の大きな資産であるはずなのに、従業員の数はもちろん、味まで把握していないとは……あまりにも馬鹿げていますわ」
前領主の行いにオフェーリアはご立腹だ。
ゾーイとジェーンも同感のようで頷いている。
サムはどちらかというと、中間管理職よろしく領主と町の板挟みになっていた町長に同情していた。
「よし! じゃあ、ドワーフさんたちに会いに蒸留所に行こうか! 蒸留所見学って初めてなんだよね。お土産のグラスとか蒸留所限定ウイスキーとか買えるのかな?」
わくわくして立ち上がるサムに、
「お、お待ちください、領主様」
町長が困惑を隠せず声をかけてきた。
「どうしたの?」
「いえ、あの、私めに罰は?」
「なんで?」
「魔族を、国に黙って雇っていたのですが」
「ああ、そういうことか」
サムはオフェーリアに視線を向け、訪ねた。
「あのさ、この国の決まりで、魔族を雇ったら駄目ってある?」
「ありませんわ。敵対国の人間を勝手に雇うには領主の許可が必要ですが、魔族は問題ありませんわね」
そもそも魔族を雇うことを想定していないはずだ。
オフェーリアに訪ねてみたのは、ガインを安心させるためだ。
「大丈夫、大丈夫。王都には魔族どころか、竜と変態もいるから」
ガインの肩を叩き、サムは意気揚々と蒸留所見学――ならぬ、視察を始めるのだった。
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