18「町民の不安です」②
「王国始まって以来の変態……まだ子供なんだろう?」
マーガレットの言葉に、ハンクスが震えながら訪ねる。
「私だって本当のことはわからないけど……王都のほうから来る商人さんが、サミュエル・シャイト様という方が恐ろしい変態だって教えてくれたの」
「俺も聞いたことがある!」
マーガレットに続き、ひとりの少年が声を上げた。
「妻が何人もいて、歳上から歳下まで気に入ったらみんな娶っちまうらしい。しかも、妻の中には貴族の男もいるらしいぞ!」
「男を妻って、さすが貴族だ、狂っていやがる」
「メイドや執事にも手を出しているって聞いたぞ!」
「そんな貴族が来たら、私たちどうなっちゃうの!?」
きっとこの場にサムがいたら「誤解もいいところだよ!」と叫んで否定しただろうが、残念ながらまだ港町についていない。
その間にも町民たちの恐れが伝播していく。
気の弱い婦人などは、気を失ってしまった。
かつて港町を苦しめた貴族を超える恐ろしい貴族が領主としてやってくるのだ。
力のない町民にとって、どれだけ恐怖か、察するに余りあった。
「落ち着け、皆の者!」
「町長」
「落ち着くのだ。新たな領主様が変態ということは残念であるが、しかし、そうならそうで対応すればいいだけの話だ」
「――っ、まさか」
「領主様に幾人か差し出そう。それで、満足していただければ、他の者の安全は確保できるであろう」
町長の悲痛な提案に、反対の声は出なかった。
今まで領主に好き勝手されていたが、自分たちから差し出せばおとなしくしてくれる可能性があるのは間違いない。反面、調子に乗ってしまう可能性もないわけではないが、町民たちはあえて悪い方を考えないようにした。
「だ、誰が領主の相手をするというの?」
ひとりの女性の声に、ざわつく町民たちがぴたりと静かになる。
誰かを差し出すことは反対しないが、家族同然の町民たちが特定の人物を名指しすることなどできない。
ただ、内心では、誰か立候補してくれ、と思っているだろう。
「わしが行こう」
「――町長!? いや、さすがに爺さんを相手にはしないんじゃないか!?」
「可能性があるのなら、犠牲となろう。マルル……すまないが、お前たちにも身を捧げてもらう」
マルルと呼ばれたのは、快活そうな日に焼けた肌の少女だった。
「はい、おじいちゃん。覚悟してます!」
まだ成人前の幼い少女が領主に身を捧げなければならない現実に、誰もが涙を浮かべる。
「なら、私も立候補するわ!」
商店の娘ハンナが手を上げた。
気立てのいい美人の彼女なら、領主も喜ぶだろうと思われた。
「領主が男を相手にするのなら、俺も立候補する!」
続いて、青年ハンクスも挙手する。
普段は漁師だが、港町にモンスターが近づくと剣を手に取る自警団のひとりであるハンクスは、鍛えられた肉体と男らしい容姿に恋焦がれる少女もいる。
ハンクスとハンナが、まだ恋人ではないものの憎からず想いあっていることは町民の誰もが知っていた。
そんなふたりが、結ばれる前に揃って領主に身を捧げる決意をするとは、と町民たちも耐えられず涙をこぼした。
「わしの娘と婿も領主殿に捧げよう。これで、若い子から老人までそろった。領主様が満足してくださればいいのだが」
「いやいやいやいやいやいやいやいや、俺はどれだけ鬼畜だよ!」
覚悟を決めた町民たちの頭上から、聞き覚えのない少年の呆れを含んだ声が降ってきた。
〜〜あとがき〜〜
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