71「枢機卿が現れました」②
カリアンは、言葉と共に指先から白い閃光を撃った。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!」
サムや友也の間を縫うように、オーウェン配下の一体の魔族に直撃し、内側から白い炎を吹き出させた。
「おっと、失礼しました。彼らにはオーウェンと同じ術を施していたせいで、予想よりも大きな効果が出てしまったようです。実際は、表面を焼く程度だったのですが。いやはや歳は取りたくないものですね、力加減もうまくできなくなってしまいしたよ」
恥ずかしそうに笑うカリアンの一撃にサムは総毛立った。
(やばいやばいやばい! 直感が、いや、本能が逃げろって叫んでいる! この人そのものに脅威を感じていないのに、聖術だか聖力だかに本能的な恐怖を覚えている!)
レプシーと対峙したときよりも、恐怖心を覚えてしまい動揺を隠せない。
好奇心旺盛なサムでさえ、参考までに聖術を食らってみたいとは微塵も思わないのだ。
「緊張しなくていいですよ。少なくとも、今、この場であなた方をどうこうするつもりはありませんから。予定通りにことを進めさせていただきます。あ、しかし、もしもあなた方がこの場で首を差し出すのであれば、喜んでその首を刈り取りましょう」
「ふざけないでもらいましょうか」
笑顔を絶やさないカリアンに、友也が怒気を顕にして魔力を放出する。
「お前たち女神狂いが急に動き出すには、女神を見つけたのか?」
(女神ってなんだ?)
「手がかりは少々。あとは、企業秘密と言うことで」
「ふざけやがって! お前たち狂信者が余計なことをすると世界が狂うだろう!」
「我々からすれば、世界を汚し、狂わせているのは魔族です」
「世界の敵め」
「それはこちらの台詞です」
しばらく睨み合う、友也とカリアン。
サムにはなんの話だかさっぱりだ。
「参考までに聞いておきますが、おまえたちはこの国をどうするつもりですか?」
「この国は実験のための場所に過ぎません。オーウェンが死んでしまったので、もう関わり気はありません。――女神様に誓って」
「……いいでしょう。帰りましょう、サム。みんな」
このまま帰っていいものかと不安になるが、友也はあっさりとカリアンに背を向けてしまう。
カリアンも攻撃する気配なく、笑顔で見送ろうとしている。
「言い忘れていましたが、サミュエルくん」
「俺?」
「ええ、君です。サミュエルくんに言伝があったことをすっかりわすれていました」
「言伝って誰から?」
「とても偉い人から、とだけ」
「……まあ、いいや。それで、内容は?」
「――女神の復活は近いよ、とのことです」
「俺にはその女神がなんだかさっぱりなんだけどな」
肩を竦めるサムに、カリアンは残念そうな顔をした。
「君がまだ人間であれば、国にお招きしていろいろ教えて差し上げたかったのですが、残念です」
「はぁ」
「サム、これ以上狂信者にかかわらない方がいいです。詳細はあとで話しますから、今はこの場から去りましょう」
「お、おう」
服を掴まれ、引っ張られるサムが曖昧に返事をする。
「オーウェンの配下は置いていってくださいね。こちらは構いませんが、そのうち聖力を含んだ大爆発をしますからね」
「……人の命を」
「人ではないでしょう? 汚らわしい魔族の命など、消耗品以下です」
カリアンは嫌悪感を出さずに、魔族を汚らわしいと断言した。
感情を向ける存在ですらないと言っているようで、ぞっとした。
サムはなにかをカリアンに向けて言おうと思ったが、言えなかった。
なにを言うべきかわからなかったからだ。
「では、また、お会いしましょう」
カリアンがまるで友人に別れを告げるように、手を振るのを見ながら、サムはティサーク国から転移した。
〜〜あとがき〜〜
9/30 書籍第2巻の発売です!
ご予約のほど何卒よろしくお願い致します!
カバーイラスト、カラー絵は近況ノートにてUPしております!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます