60「元魔王と話します」①
「ひさしぶりだねぁ、遠藤友也ぁ!」
爛れた黒い翼を持つ鳥の欠けた嘴から、耳障りな嫌味な声が響いた。
「オーウェン・ザウィード」
「変態に名前を呼ばれるとおぞましいねぇ。だけど、君が私を覚えているようで安心したかな。なんせ、こっちは汚らわしい人間上がりの魔王にコケにされて、国も駒も失ったんだ! 私が今までどんな思いで生きてきたかっ」
「いえ、お前のような屑には興味はありません」
「――貴様っ!」
「もうそう言うのいいんですって。お前は、ティサーク国を動かして、アーリーを、部下を使いサムにこっちに喧嘩を売った。敵対行為として受け取りましたので――今度こそ確実に殺してやる」
感情的なオーウェンの声に反し、友也は感情の籠もらない冷たい声を出した。
使い魔越しに、オーウェンが後ずさったのをサムは感じ取った。
「私を今までの私だと思うなよ! 私は貴様たちを超えた力を手に入れた! なにが魔王に至るだ! そんな意味のわからないことをせずとも、貴様らを凌駕した力を手に入れたんだ!」
「自力で力を得て自惚れているのならまだ可愛げがあるんですがね。他人からのもらいものを自慢するとか、子供ですか?」
「――てめぇえええええええええええええええっ、僕を馬鹿にするのかぁああああああああああああ!」
「口調が崩れていますよ。大物ぶるなら最後まで続けないと。ま、別にお前程度の屑がどれだけイキがろうと正直興味はないんです。あ、でも、ひとつだけ――あのお方とは誰です?」
余裕ぶっていたオーウェンが絶叫する中、友也が淡々と尋ねる。
すると、使い魔越しにオーウェンがくつくつと笑い出した。
「は、はははははは! アーリーのやつが口を滑らしたのか? まあ、いいさ! あのお方の偉大さを知れば、お前たちはひれ伏すことになるだろう! あのお方は、僕に貴様ら以上の力を与えてくださった!」
「……あの屑がここまで謙る相手ってだけでも怖いですね」
友也の言葉にオーウェンを知るエヴァンジェリンも同意するように頷く。
「では、ひれ伏したいのでその方の情報を。なんでしたら、会わせてくれても構いませんよ!」
「貴様のような変態に、あのお方が会うわけがないだろう!」
「さっきから変態変態って! 屑が僕を変態と言うな!」
どっちもどっちじゃね、とサムは思ったが空気を読んで静かにしていた。
きっと他の面々もそうだったのだろう。
カルなどはつい口にしそうになって、ダニエルズ兄妹に左右から口を封じられていた。
「くだらない。昔から貴様はそうだった。変態行為に明け暮れながら、誰よりも残酷で冷酷だ。お前のせいで、幾人の魔族が死んだと思う? 魔王狩りなどと意味のわからないものを始めなければ、魔族はもっと自由だった!」
「好き勝手やっているのを自由とはいいませんよ」
「――おい。俺もあんたに話がある」
喧嘩腰に話を進めていくふたりの間に、サムが割って入る。
元魔王オーウェンに聞きたいことがあったのだ。
「ああ、お前か。サミュエル・シャイト」
「俺の名前を知っているみたいだな」
「もちろんだ。数百年ぶりに魔王を名乗ったガキだからね」
「じゃあ、自己紹介はしないけど。なんで俺に、いや、スカイ王国にちょっかいをかけてきた?」
そう。サムの疑問は、なぜ自分なのか、だ。
スカイ王国への嫌がらせ行為は、友也やエヴァンジェリンたちがいるのでわかる。
だが、アーリーはサムを狙ってきたし、聞けば女体化したアーグネスももともとはサムを捉えようとしていた。
その理由がわからない。少なくとも、元魔王に恨まれる理由などない。
「スカイ王国には嫌がらせだ。変態魔王と、あばずれの竜と親しくしているようなくになら、滅ぼしたっていいだろう?」
「誰があばずれだ! ぶっ殺すぞ!」
「黙っていろ、エヴァンジェリン。人間に誑かされて、いいように利用された堕ちた竜が、僕に話しかけるな」
「てめぇ!」
エヴァンジェリンの怒りが呪いの魔力となって噴き出す。が、ギュンターがすかさず結界を張り巡らせることによって周囲への影響を最小に抑えた。
中庭の芝生や、木々はほぼ枯れてしまったが、これで済んでよかった。
「話題を逸らすなよ」
「ふん。お前のことなんて個人的に興味はないんだが、あの方に殺せと言われてね。まあ、できれば生かして捕縛するように言われたんだけど。まったく、人間に魔道具までもたせてやったのに、これだから下等生物は」
「要は、あんたはお使いに失敗したわけだ」
「――貴様!」
「用があるなら、あんたが直接こいって。斬り殺してやるよ!」
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