51「喋ってもらいましょう」②





 友也と話している間に、アーリーが目を覚ました。


「ん……俺は? ――っ」


 意識を覚醒させてすぐに自分の現状を把握したようだ。

 アーリーは友也を睨みつける。


「改めて、お久しぶりですね。殺したと思っていた君が生きているのはなんとも言えない感覚です。残念ながら再会を喜ぶことはできませんね」

「殺せ!」

「お望みなら、その通りに。しかし、まさか君も義理に厚い女性です。数百年前の些細な恩に対して、まあよくもあの屑に付き従う者です」

「殺せって言ってんだろ!」


 吠えるアーリーだが、彼女の瞳にははっきりした恐怖が浮かんでいた。

 殺されることへの怯えか、それとも主人を裏切ってしまう不安か。


「命を奪う前に、君には役目があります」

「――っ、殺せよ!」

「そう死に急がなくてもいいじゃありませんか。なにをそんなに怯えているんですか?」


 友也の態度から、すぐに殺されはしないとわかったのだろう、アーリーは絶望した顔をする。


「……縛り上げて凌辱かよ。俺もついに年貢の納め時か。おぞましい変態魔王の子供を何人も産まされ他挙句、四肢を切断されてどこかの好事家に売られちまうんだな」

「僕はどれだけ鬼畜なんですか! さすがにそんなことはしませんよ!」

「しないのか!?」

「だからしないって、言ってんだろ!」


(――なるほど。アーリーが怯えていたのは、友也に凌辱されるのが怖かったのか。うん、まあ、そうだよね)


 友也に怯えて失神するくらいだ。そりゃ、そうだ。サムは大いに納得した。


「あー、ごほん! では、仕切り直します。今から、君を尋問します。口を割らないのなら、拷問に切り替えます。そして、最後には」

「孕ませるんだな!?」

「ちげーよ! 殺すんだよ! 情報を吐かないならようはないですからね!」

「といって、凌辱するんだろ!」

「しねーって言ってんだろ! そんなにされたのなら、サム、出番ですよ!」

「なんで俺なんだよ! スカイ王国の紳士代表の俺がそんなことできるか!」

「童貞の僕に凌辱なんてできるわけないでしょう!」

「普段、あれだけやってるのに!?」

「ラッキースケベを僕の意思でしたことはありませんよ!」


 アーリーを前に口喧嘩を始める、サムと友也。

 恐る恐るアーリーが友也に尋ねた。


「……変態魔王、お前……童貞なのか?」

「だったらなんだって言うんですか!」

「ぎゃはははははははははははははっ! だせぇ、なにそれ! 千年も生きていて童貞とか、なんだよお前! 娼館に行く金もねえのか!?」

「これだから、屑の部下は。初めては好きな人って決まっているでしょう!」

「……えぇぇぇぇ。ピュアかよ。いや、まあ、なんだ、ごめんな?」

「なぜ急に謝るんですか!」

「変態魔王が恋愛するとか想像ができねえんだよ!」

「もう情報いらないから殺していいですか、こいつ!」

「待て待て、わかった! じゃあ、こうしよう。俺のダチに、童貞が大好きなエルフがいるんだ。そいつを紹介してやるよ! な?」

「な、じゃねーよ! 相変わらずしょうもない種族だな、クソエルフ!」


 叫びすぎて、肩で息をする友也。

 怯えていたはずのアーリーは、涙を浮かべて笑っている。

 ちなみに、友也の発言を聞いたエヴァンジェリン「え、きも」と小さく呟き、ダニエルズ兄妹に至っては「以前からとてつもない童貞力を感じていた」「変態童貞魔王って怖いな!」と好き勝手に言っている。ボーウッドだけが「ウブな一面があるのはギャップ萌えでモテると思うぞ」と慰めの言葉を口にしていた。

 屋敷の中から様子を見ていた面々にも聞こえたのだろう。どことなく気まずそうな視線を送られていた。


「ああ、もう! 切れましたよ! 切れちゃいましたよ! ここまで僕を怒らせるなんて、なかなかできませんよ! 全部、オーウェン・ザウィードが悪いんです! あいつ、ぶっ殺してやる!」

「八つ当たりするなよ」


 サムがツッコミを入れるが、友也の怒りは治りそうもなかった。




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