閑話「警戒するそうです」
「あの……ママ」
「どうしたの、ヴァルザード?」
ヴァルザード・サリナスは、いつもなら浮かべているはずの笑顔を消して、エプロン姿で食事の支度をする母に、声を小さくして話しかけた。
「今日も、あの人来ているんだね」
ヴァルザードの言う「あの人」とは父親を名乗る「パパ」だ。
「もう、ヴァルザードったら。あの人、じゃなくてパパって呼んであげなさい。この間も、あなたに嫌われているんじゃないかって、落ち込んでいたのよ」
「ご、ごめんなさい」
「難しい年頃なのは承知しているから、責めてなんかいないわ。でもね、せっかく家族みんなで暮らすことができるのだから、ヴァルザードも仲良くしてくれると嬉しいわ」
「う、うん」
叱るわけではなく、あくまでもヴァルザードが「パパ」を受け入れる日を待ってくれると言う母に、頷く以外できなかった。
「パパ」が急に現れてから、少しだけ母はおかしくなった。
なにが、と問われたら、難しい。
いつも通り優しい母で、大好きな母だ。
しかし、なにかがいつもと違うのだ。
違和感に気づいているのは、ヴァルザードだけ。
「パパ」を無条件に受け入れているのも、同様だ。
自分よりも頭の良い兄妹たちが、「パパ」と嬉しそうに話、食事を共にし、今も外で遊んでいる。
「ママ」も「パパ」が一緒だと嬉しいようで、ニコニコと笑顔が絶えない。
――まるで、おかしいのが自分だけのように思える。
「パパ」を「パパ」として受け入れることができないことが、「ママ」に申し訳なく、兄妹と違うことが怖い。
だが、ヴァルザードには「パパ」を受け入れられそうもない。
なぜなら、初めて顔を合わせた時――「パパ」だよ、と少し照れた様子で微笑んだ「パパ」の目は、なにも笑っていなかった。感情の籠らぬ目で、路肩の石でも見ているようだった。
不気味だった。
あんな目をしながら、「パパ」として兄妹と母に家族の大事さを解くのだ。
異常だった。
遊びと称して兄妹たちと戦い、汗ひとつかかず倒すことができたのだ。
気持ち悪かった。
「パパ」の名前を、ヴァルザードたちは知らない。
なによりも恐ろしいのが、母となにか計画をしているのだ。
女神、掛け合わせ、次の個体、魔王を超えた魔王、いくつかの言葉が聞こえるも、断片的で理解ができない。
きっとすべてを聞いても理解はできないだろう。
だからこそ、恐ろしい。
「パパ」がなにを考えているのかわからないのだ。
今日、母に声をかけてみて察した。
家族を守れるのは――僕だけだ。
ヴァルザードは家族を守るために、「パパ」に警戒することを決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます