34「恋愛相談です」①
スカイ王国王都にある愛の女神エヴァンジェリン・アラヒーを祀る【愛の神殿】に今日も多くの悩める者たちがいた。
最近では、スカイ王国国内だけではなく、他国からも相談者が足を運んでいる。
敬虔な信者も増え、じわじわ大陸に広がりつつあるようだ。
ざっくりとした神を祈る教会はあるのだが、最近ではエヴァンジェリンを神として認めるだか認めないだかで内部分裂しているようだ。
もしかしたら、愛の女神エヴァンジェリンを信仰する教会が人間社会に広がり定着する日もあるのではないかと予想されている。
本来は魔王であるエヴァンジェリンだが、同時に竜である。
竜を神聖な生き物として崇める地方もあり、すでに竜信仰の者たちはスカイ王国へ向かい『巡礼中』だ。
さらに言えば、エヴァンジェリンは竜王の娘である。おまけとばかりに、今、スカイ王国を訪れれば、竜王とその子供たちと会うことができる可能性もあるので、聞いたことのない地方から多くの人が向かっているようだ。
ときどき、巡礼者を相手に「よかったら、スカイ王国付近まで転移いかがっすかー?」と商売を始める輩もいるようで、違いうちに魔王と新米魔王が捜査に乗り出すという噂がある。
そして、愛の神殿に本日最後の相談者が訪れていた。
異世界から召喚された聖女霧島薫子も、気づけば愛の女神エヴァンジェリンの聖女として周知されつつあった。
純白の衣装に身を包んだ彼女に案内され、聖堂に通された「彼」は、だるそうに背もたれに寄りかかっているエヴァンジェリンに深々と礼をした。
「……一応、相談ってのを聞いてやるよ。言ってみろ」
今日も奇人変人を相手にしながら、女神らしく対応してきたエヴァンジェリンらしからぬ、面倒臭そうな顔をして先を促す。
彼は気にする素振りを見せず、相談内容を言った。
「――女神様。実は、俺には気になっている人がいるんです」
エヴァンジェリンは、はぁぁぁぁ、と大きなため息を吐く。
控えていた薫子も少し苦笑顔だ。
「――女神様。実は、俺には気になっている人がいるんです!」
「二度言わなくても聞こえてるよ! ていうか、てめーはきもいんだよ、ボーウッド! どうせロボのことだろ!」
唾を飛ばす女神に相談していたのは、スカイ王国の獅子おじさんと子供たちから愛されている獅子族の獣人ボーウッド・アットラックだった。
ボーウッドは、かつて新たな魔王を名乗り新生魔王になろうとしたのだが、サムと戦い敗北したことで、その目的は潰えた。
実際は、真なる魔王を名乗るヴァルザードという少年によって操られていた。
自らの行いを反省したボーウッドは、以来サムを「兄貴」と呼び慕いスカイ王国についてきたのだ。
獅子族の長という立場もあり、本人は人当たりのよい性格だった。
その獣人とすぐにわかる見た目のせいで好機の視線を向けられるボーウッドであるが、その持ち前の気質から友人を増やし、子供たちからも大人気だった。
最近では、魔法少女関連や、舞台関連のイベントにも顔を出しているようで、彼のおかげで獣人は受け入れられるだろう。今後も他の獣人たちの移住計画が進んでいる。
そんなボーウッドは、自分の相談内容を全て打ち明ける前に知られていたことに驚きを隠せず、目を見開いた。
「……まさか、すべてお見通しだったとは。本当に神なのか!?」
「誰でもわかるわ! ロボを前にすると、もじもじしやがって! きめーんだよ!」
「だって恥ずかしいんだもん!」
「だもん、とか言うな! お前、いいおっさんだろ! なんで恋愛相談をしに来てんだよ! 呪うぞ!」
「ここはお悩み相談室だと聞いていたのに」
「私は相談員かなんかか! ここは神殿だ! あ、いや、なんで神殿なのか説明できねーけど、とにかくお前の恋愛相談する場所じゃないんだよ! 帰れ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます