33「ついに受け入れられてしまいました」②
差し出した手を拒否されたダグラスだったが、気にすることなく豪快に笑い飛ばす。
「おお、なんだ、お前さんもサムの妻か? 見たところ、男のようだが、俺は性別なんて些細な問題は気にしない! サムたちが幸せなら、それでいいだろう」
「いやいやいや! よくないから!」
「はっはっはっ! 照れるな照れるな! サム、愛は偉大であり、素晴らしいものだ。恥いることなどないぞ!」
度量の深い、いや、深すぎるダグラスは、ギュンターの妻発言をそのまま受け入れてしまった。
これには一同びっくりだ。
ギュンターでさえ、驚きを隠せないでいる。
(いや、お前が驚くなよ!)
もしかしたら、「妻」を自称して、否定されながらしつこくするまでが作法だったのかもしれない。
「あのですね、ダグラスさん」
「さすがに俺には男の妻はいないが、友人には性別のない種族もいるからな。細かいことなど気にしないぜ。大事なのは、愛だ」
「すごいな、この魔王様。これだけ堂々と愛と言える人も珍しい。どっかの変態と違って、言葉に重みがあるもんね」
いつかダグラスのようなかっこいい男になりたいと思った。
同時に、これ以上否定するのもなんだかおかしな空気になったので、今日はもうやめておこうとしたその時だった。
ちらりと見たギュンターの瞳から、一筋の涙がこぼれた。
「なんで泣いてんだよぉ」
「ウルリーケに愛を囁き、サムへの愛を何度も伝えてきた。しかし、誰もが僕の愛を信じず、邪険にしてきたが……信じてくれる人がいてくれるなんて」
「いやさ、あの奇行と言動をなんとかしようぜ。そっからだろ」
「僕は感動している!」
「聞けよ!」
サムの言葉が耳に入らないほど、感涙するギュンター。
いつも通りのドン引きする光景だ。
「ダグラスくんと言ったね?」
「おう」
「改めて名乗らせていただこう! 僕の名は、ギュンター・イグナーツ! サミュエル・シャイトの正妻さ!」
「おい、こら! ランクアップするな!」
妻が受け入れられたことをいいことに、こっそり正妻を名乗りだすギュンター。
「気にするな、気にするな、些細な問題だ」
「些細じゃないよぉ」
やはり受け入れてしまうダグラスの度量は海のようだった。
「男の友人は必要ないと思っていたが、特別に君を僕の友人にしてあげよう! 握手はちょっと無理だが、指先をそっと触れるだけなら許そう!」
「お、おう?」
人差し指を伸ばすギュンターに、若干戸惑いながらもダグラスが指を伸ばす。
ふたりの指先が重なった。
(なにこの光景? ウチに電話したくなってきたんですけど)
「ふっ。これで僕たちは友人だ。この国で困ったことがあればなんでも頼ってくれるといい。力になろう!」
「よくわからんが、異国で友人が増えることはいいことだ。よろしくな、ギュンター!」
度量が深すぎるせいでギュンターに気に入られたダグラスは友人となった。
「今日は素晴らしい日だ! 僕を理解してくれる友人を得たのだから! イグナーツ公爵家の使用人は、本日は休日としよう! いいや、スカイ王国の祝日と定めよう!」
くるくる踊りながら、ギュンターは喜ぶのだった。
「俺、しーらね」
サムはこの件には関わらないようにしようと決めた。
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