32「ついに受け入れられてしまいました」①




 朝食の席には、いつもの面々とダグラス、ジェーン、カルがいた。

 てっきりカルの転移魔法で帰国したと思われていたのだが、なぜか朝食中だ。

 サムの視線に気づいたダグラスが、バツの悪そうな顔をして、聞いていないのに説明を始める。


「……ジェーンとカルが大喧嘩してな。帰るどころじゃなかったんだよ」

「ジェーンさんって喧嘩とかするんだね」

「するんだよ。あのふたりは犬猿の仲つーか、なにかあれば喧嘩ばかりだ。こっちに来るときは大したことなかったんだが、昨晩は盛大にやりやがって。屋敷を抜け出して、朝まで殴りあってたぞ」

「うわぁ」


 冷静に見えるジェーンが、お調子者のカルと殴り合いの喧嘩にまで発展する光景を想像できなかった。

 彼女たちに視線を向けてみると、黙々と食事を続けているが、対面するように座っているのでときどき目が合うと「ふん」と逸らしている。

 どうやら犬猿の仲というのは本当のようだ。

 屋敷で喧嘩しなかっただけ、よしとしよう。サムは、そういうことにしてこれ以上関わらないことを決めた。


「だが、ちょうどよくもある。後日、この国の王と会いたかったんだが、せっかくだからしばらく滞在して会わせてもらおうと思う」

「クライド様と?」

「ヴィヴィアンの夜の国と友好関係を築いただろ? なら、俺の鬼王国とも仲良くしてほしいと思ってな」


 兄貴と呼びたくなるような気のいいダグラスと、最近はビンビンしか言わなくなったクライドを合わせていいものかと思う。


(クライド様は絶対、ビンビンであるか? とか聞いちゃうんだろうなぁ。だけど、ダグラスなら笑って、おう、と言ってくれると思うけど、大丈夫だよね? ね?)


 国家間の問題になりませんように、とサムは願った。


「すでにジョナサンに王への面会を頼んである。最悪、一度は帰国してもカルあたりに転移してもらえればすぐだからな」

「転移魔法って便利だよね」

「だが、使用者が少ないからな。友也もカルもぽんぽんあっちこっちに移動しているから、こっちが頼みたいときに捕まらないのが難点だ。俺が、はじめてスカイ王国に来たときだって、面倒だったんだぞ」

「ちょっと前のことなのに、なんだか懐かしいね。あれからいろいろありすぎたから、すごく昔のことに思えるよ」


 サムが苦笑し、ダグラスが笑う。

 すると、ダグラスは目を細めた。


「あの時は、将来性のあるよき少年だと思っていたが、こうして魔王になり、強くなったな。今はまだ早々に負けるつもりはないが、いずれ俺を超えた強い魔王になれ」

「――ああ!」

「もちろん、俺も今以上に強くなるさ。共に、強くあろう、サミュエル・シャイト」

「強くあろう、ダグラス・エイド」


 認め合う魔王と新米魔王が頷き合った。

 そんな時だった。


「やあ、みんな、おはよう! 今日もいい朝だね!」


 やたらテンションの高いギュンター・イグナーツがこれでもかと思い切り扉を叩き開いて食堂に現れた。

 彼は無駄に白い歯を輝かせると、サムを見つけてウインクする。

 ぞわっとした。


「これはこれは愛しいサムじゃないか! ちょっと僕が留守にしている間に、いろいろあったようだね。え? 僕がどこにいたかって?」

「聞いてねーよ」

「実は、兄上のところに顔をだしていてね。いくつかハプニングもあったが、こうして君のもとに帰ってきたところだよ!」

「朝から胸焼けするほど元気だな」

「ふっ、褒めても僕の愛しか出ないよ?」

「いーりーまーせーんー!」


 絶好調なギュンターに、朝だというのに疲れてきた。

 サムが大きくため息をつくと、楽しそうに笑うダグラスの声が響く。


「――おや。君が、変態魔王の同僚の魔王殿かな」

「ああ。俺はダグラス・エイドだ」


 ダグラスが席から立ち、ギュンターに近づき握手を求めた。


「僕はサムの妻、ギュンター・イグナーツ! 妻以外の手を握るつもりはない!」




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