コミカライズ開始記念SS ウル地球編 後編





「お恥ずかしいところを見せました」

「申し訳なかった」


 サム――いや、白川司のご両親は、ウルこと流羽に深々と謝罪した。

 さっきまで謝罪されていたのだが、それは息子が小学生に手を出したと勘違いしたからであり、今回はそれが誤解であり早とちりしたことを謝罪していたのだ。


 白川家に上げられた流羽は、居間に通されてオレンジジュースを出されていた。


「こちらこそ、誤解を招く言動をしてしまい申し訳ございませんでした」

「はぁ……しっかりした娘さんねぇ」

「前世で成人女性だったと言われて、まさかと思ったが、少し納得しそうな私がいるよ」


 すでに流羽は自分が異世界でウルリーケ・シャイト・ウォーカーだったことと、白川司が転生しサミュエル・シャイトとなったことを話している。

 ご両親は子供の戯言とは一蹴しなかった。

 流羽が真剣に話していたからというのもあるが、もしかしたら亡き息子が世界を渡って元気にやっているという話を信じたかったのかもしれない。


「私はね、サラリーマンをしているが、副業で小説を書いていてね。お恥ずかしながら売れてはいないんだが、異世界転生があるのなら、中々興奮するね」

「……お父さんったら」

「すまない。司も私の本を読んでくれていてね。親の勝手な言い分だが、別の世界に姿形を変えて転生したとしても、我が子が元気でいてくれるなら嬉しいことはないよ」

「――お父様」


 流羽が推測したようにやはり、ご両親は司が異世界であっても元気でいることを信じたいようだ。


「あの子は少し変わった子だけどいい子でね。高校を卒業して就職した会社が、ブラック企業だったのよ。それだけならまだ良かったのだけど、嫌な上司にパワハラを受けていたみたいでね。そんな中、仕送りまでしてくれていたのだから……あの子の苦労も知らずに情けないわ」

「その結果が、過労死だったからね。今、会社のほうに訴訟を起こしているんだ。パワハラ被害者も多数いるし、味方にもなってくれたよ。息子は同僚たちに好かれていたようでね。それだけが救いさ」


 白川司は、両親の言葉通り、過労死だった。

 友人はそれなりにいたようだが、恋人はおらず、趣味らしい趣味もなく、仕事をして眠り、また仕事という毎日だったそうだ。

 上司は暴言ばかりの無能で、会社を経営する一族の遠縁だとかでやりたい放題だったらしい。

 司の他にも過労死や自殺者が出ていることから、かなりの規模の訴訟になるそうだ。


 流羽は、今、この瞬間魔法が使えないことを恨めしく思った。

 支えたのなら、この場から会社丸ごと焼き払ってやるのに。

 無論、そんなことをしてもサムは戻ってこないし、亡くなったからこそ転生し、ウルと出会ったのだから、複雑である。


「お嬢ちゃん、いえ、流羽ちゃん。それで、息子はお父さんが書いているような小説みたいに異世界に転生してどうなったんだい?」

「せっかくだから、もっと事細かに教えてくれるかな?」

「もちろんです」


 暗い話をやめにして、流羽はサミュエル・シャイトのことを語った。


「――複雑な家庭環境に生まれながら、魔法の才能と、綺麗なメイドさんがお姉さん代わり。なるほど、主人公だな」

「……まさかこっちで女っ気がまるでなかった子が、異世界でハーレムとはねぇ。しかも、姉妹、王女様とかって、いいご身分ね」

「ハーレムとは羨ましい!」

「お父さん?」

「いや、実にけしからんな! まったく、父親として嘆かわしい! それにしても、司は年上趣味だったのか。知らなかった」


 ご両親は、剣と魔法の世界ではなく、息子の女関係に興味津々だった。

 サムに似た雰囲気を持つふたりが、笑う姿は、かつてのサムを思い出させてくれるので、流羽も生き生きと語った。

 あっという間に、時間は立ち、そろそろお暇しなければならなくなった。


「また、あの子の話を聞かせてくれるかしら?」

「もちろんです。まだまだ話し足りないことは山のようにありますから」


 駅まで見送ってくれたご両親の願いに、流羽は快諾する。

 流羽としても、サムのご両親との縁をこれだけにしたくなかった。

 いつか、本当に笑うことができ、司の死を乗り越えるまで支えられることができれば、と思う。


「また来ますね! お父さん、お母さん!」


 流羽はそう言って、再会を約束したのだった。


 こうして、地球の日本という世界で前世を取り戻したウルの新しい人生は幕を開けたのだった。





 〜〜あとがき〜〜

 これにて地球編は一旦終わりです。

 もしかしたら、また書くかもしれませんので。お楽しみに!

 8/5よりコミカライズはじまりましたー!

 comicWalker様、ニコニコ様にてお読みいただけますので、何卒よろしくお願い致します!

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