16「勝敗の行方です」①
「お、お前なぁ、ここで止めるか?」
娘によって一撃を止められてしまったダグラスが、不満そうな顔をして呟くが、ジェーンは澄ました顔で淡々とした態度を崩さない。
「止めますとも。尊敬する魔王様にこんなことは言いたくありませんが、どうせ負けていたのですから」
「……ちっ、わかったよ。おい、サム、おしまい――ぶへっ、そうだっ、こいつは今ハイにぶはっ、ごっ、おっ、ちょ、まてっ」
拳を収めたダグラスに対して、ハイになったままのサムはするりとジェーンの横を抜けてダグラスをぶん殴る。
闘争本能剥き出しになっているサムは、自らの拳が硬いダグラスの肉体を殴ることで傷つこうが構わず笑いながら拳を振るう。
ダグラスが若干引きながらも、防御しようとするが、サムの繰り出す拳が速く捌けない。
「ちょ、ジェーン! なんとかしてくれ!」
「失礼致します、サミュエル様」
蹴りを続けるサムの背後から、ジェーンの長い足が鎌を振るうかのように薙ぎ払われた。
「けぺっ――あれ?」
脇腹に蹴りを入れられたサムが変な声を出したが、正気に戻った。
すると、額を抑えて蹲った。
「頭いてぇええええええええええええええええ! ていうか、腕もいてぇえええええええええええええええええ! なにこれ、砕けてるじゃん! お医者様っ、どなたかこの中にお医者様はいらっしゃいませんかぁぁあああぁああああああああああ!?」
「お前さん、余裕だな!」
サム同様に血塗れのダグラスが、超速再生できるのに医者を呼ぼうとしたサムにツッコミを入れる。
正気に戻ったサムもまだ元気が有り余っているようだが、ダグラスもダグラスで見た目に反して余裕があった。
「サミュエル様、回復魔法よりも早いかと思われますので、超速再生をお勧めします」
「そうだった! 俺、回復魔法いらずだった!」
言われて思い出したサムが怪我だらけの肉体を再生していく。
同じくダグラスも、サムよりも時間がかかったが、肉体を再生した。
「あー、直った。ていうかさ、ダグラスって全然弱くないじゃん! 魔王の中で一番弱いって嘘じゃない? あれでしょ、俺は弱いアピールして実は強いんですとかしちゃうタイプ?」
「……よく言うぜ。スキルも魔法も使わずに、俺の喧嘩に付き合ってくれたじゃねえか。俺は全力だったぜ。だが、お前さんにはまだ手段はいくつかあった」
「それはそうだけど……」
ダグラスは自身を弱いと言うが、めちゃくちゃ強かった。
特殊能力を持たず、強靭な肉体のみで魔王になった男は、同じ男として惚れ惚れするほどの強さを持っていると素直に感服する。
同じく肉弾戦を得意とする竜王候補の玉兎でさえ、ダグラスほど硬くはなかったし、彼の最大の一撃は竜特有のブレスだった。
サムももちろん、スキルや魔法を使わなかったが、ダグラスに通うじていたかと問われれば疑問だ。
魔王に至ったことで斬る力は増したし、使えなかった魔法も山のように使えるようになったのだが、通用するものがいくつあるだろうか、と悩む。
何よりも、喧嘩の途中で意識が飛んでしまったのはサムのほうだ。
初めてこれほどのダメージを受けすぎたせいで、ネジが一本外れたような感覚に陥ってしまった。
感情的になるとかではなく、意識が飛んだ事実は、未熟であり恥ずかしい。
今回の喧嘩は、サムの負けだ。
「まあ、喧嘩と言ったのはこっちだ。殺し合いを望んだわけじゃないから、とやかく言わんが、いつか機会があれば本気で戦りたいものだ」
「そうだね」
サムとダグラスは、自然と手を差し出し、握手をした。
「また喧嘩しようね」
「ああ」
力強く手を握りしめるふたり。
「で、だ。一応、白黒はちゃんとつけておこう」
「ん? ああ、そうだね」
「今回の喧嘩は――俺の負けだ」
「俺の負けだね」
サムとダグラスは、お互いに敗北を宣言し、
「んんん?」
揃って首を傾げた。
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