54「死なないでください」
腹部に腕が突き刺さったサムと、両断されたロボが揃って王宮の中庭に落ちた。
地面を陥没させて、まともに受け身さえ取れなかったサムは、息も絶え絶えに震える手で腹部に刺さる腕を掴み、
「がぁああああああああああああああああああああっ!」
絶叫を上げて無理やり引っこ抜いた。
血が大量に噴き出し、目眩がする。
だが、すぐに超速再生によって腹部に開いた大穴が塞がっていった。
「あー、死ぬかと思った!」
最初に襲われたとき、結界もなにも準備ができておらず、背後を気にしなければならない状態では勝てる気がしなかった。
即座に戦闘の場を整えることに成功したのだが、想像以上に楽しい戦いだった。
正直な話、魔法を使って距離を取ることで自慢の動きを封じれば、ここまで手ひどく傷を負わされずに勝てる予定だったのだが、まさか寝起きで寝ぼけていたので力が抑えられていたとは思わず、驚きはしたが、サムの力のおよぶ範囲の出来事であることには変わらなかった。
単純な力では竜王候補の玉兎のほうが上だったが、速さと鋭さはすべてがロボのほうが上だ。
獣の王にふさわしい、速度だった。
サムの動体視力は魔王と至り跳ね上がったが、ベースが人間である以上、自力で劣っていた。
そこで、身を犠牲にすることで絶対的な一撃をロボに喰らわせたのだ。
その前に、彼女の放った雷を食っていたことで超速再生を可能とするだけの魔力温存があったからこそできた手段だ。
もちろん、超速再生に頼らずとも魔法で倒す手段もふたつほど頭の中にあったのだが、真正面から向かってくる相手に、真っ向勝負をしたくなった。
かつて魔王レプシー・ダニエルズは、圧倒的な攻撃力と吸血と吸収、そして防御を必要としない超速再生を持つことで最強の魔王と謳われた。
彼の力を継承したことで、その戦い方はサムにも引き継がれたのだ。
だが、まだ超速再生も吸収能力も完全に使いこなせていないので、サムもダメージを負ったが、いつか成長の果てにレプシーと同じまで至れるだろう。
それはそれで戦いがつまらなくなりそうだと思う反面、まだまだ強くなれることに喜びを覚える。
「ありがとう、ロボ・ノースランド。あんたが強者だったおかげで、今の俺の力を、レプシーの力を試すことができた。これで、理不尽に俺を襲ったことを許してあげるよ」
腹部の違和感は若干残っていたが、問題なく立ち上がったサムは真っ二つになったロボに向けて笑った。
「…………あれ?」
おかしい、とサムは首を捻った。
いつまでたっても返事がないのだ。
「…………」
「ちょっとちょっと、なにしているんですか!」
冷や汗を流して、どうしよう、と悩み始めたサムの背後から、遠藤友也が慌てた様子で現れた。
「あ、友也。いいところに」
「ロボの気配が現れて、ふたりが戦ったのは把握していましたけど、まさかこんなに圧倒的に決着がつくなんて思っていませんでしたよ!」
「気づいたなら忠告してよぉ」
「言い訳にしかなりませんが、僕だってロボが現れたのはこの国の結界を彼女が破壊したのと同時です。申し訳ないです。代わりに、会場に被害がでないよう全力で守っていましたよ」
「ありがとう。そっちのことが心配だったんだよ」
そんな会話をしながら、友也はロボに近づき口元に耳を当てる。
「かすかに呼吸はしていますが、ちょっとまずいですね。というか、真っ二つにされているので、あと少しで死ぬでしょう」
「……お、襲ってきたのは向こうだし!」
「別に責めていません。ただ、彼女がなぜサムの情報を知っていたのか……こうなると分かっていたから、君のことが伝わらないように情報を遮断していたんですが」
「こっちも手加減とかできる相手じゃなかったからさ」
「いえ、それはいいんですが、彼女が死ぬと面倒なことになりますよ――サムが」
「俺が!? なんで!?」
友也はロボに治療をしようと思ったようだが、胴体を両断されて内臓が溢れている彼女を見て、諦めたように手を止めた。
サムの一撃は、ただロボを斬っただけでなく、魔力、血液など彼女から多くを奪いもしていたのだ。
「……ロボには多くの信仰者がいます。そんな信仰者たちによって、獣の国が存在し、王はもちろんロボですが、今まで国民を放置していました。まあ、勝手にやれ、というスタンスです」
「ボーウッドから聞いたことはあるけど」
「国民の大半がロボの強さに心酔しています。考えてください。もし、神の如く敬われているロボが倒されたとなればどうしますか?」
サムは顔を引きつらせた。
「復讐しにくる、とか?」
「それなら返り討ちにすればいいんですけど。獣人は、強者に従うんです。つまり――君がロボに変わり、獣の国の王に」
「誰がそんな面倒くさいことするもんかぁああああああああ!」
これ以上、自由がなくなるのはごめんだ、と叫んでサムはロボの腕と下半身を拾い、胴体とつなげるように置く。
「そんなことをしても無駄ですって。見てください。ロボの満足そうな顔を……サムには言っていませんでしたが、ロボはずっと死にたかったんです。その願いが叶うのであれば、安らかに……」
「いやいや、そんないい話みたいに終わらせないで! 俺が困るんだよ!」
サムはこのままロボを死なせると自分が面倒になることを確信し、彼女の身体に手を当てて、魔力を限界まで高めた。
「――これは」
その魔力量、質、濃さに、友也が驚いた顔をする。
「勝手に襲ってきて、勝手に死んで、勝手に俺に面倒を丸投げするんじゃねえ! あんたは生きろっ、また殺し合おうぜ! ――回っ復っ!」
すべての魔力を使い、サムは回復魔法を解き放った。
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