36「父を知りました」②




 父親の元婚約者から告げられた残念な知らせに、サムが絶叫すると、ジュラ公爵はくすくすと笑った。


「緊張が解けたようね。今のあなたのほうが可愛らしいわ」

「えっと、はい。じゃあ、もしかして緊張を解すために作り話を?」

「いえ、間違いない実話よ」

「……とても残念です」


 本当に残念だ。

 自分の血には変態王族の血が本当に流れているようだ。

 わかっていたことだが、実の父まで変態だったとは――恐るべき呪われし血脈だ。

 一度は「呪われし子」という存在ではないかと疑惑があったサムだが、ある意味その通りじゃないかな、と肩を落とすのだった。


「また補足をすると、当時私の父はロイグを次期国王に推していたの。でも、ロイグにそのつもりはなく、兄こそふさわしいと思っていたのね。だからこそ、そのようなふざけた態度を取ったのだけど――」

「だけど?」

「その後も、スカートめくりをしたり、卑猥な小説を朗読させられたりと、散々な目に遭ったわ」

「もうぶっ殺していいですよ! そいつ!」


 ジュラ公爵も当時は初心だったのだろう。

 ロイグにいいように遊ばれているのがわかる。


(――むしろ、そんな男と結婚しないでよかったんじゃないかなぁ?)


「しかも、陛下はそんな私たちを見て、うむ、仲がよく何よりだ! いいビンビンである! おっと、まだ合体には早いぞ。と、にこやかにおしゃっていたわ」

「引っ叩いてやればよかったのに!」

「そんな陛下のそばで、フランシス様とコーデリア様が殿下素敵と頬を赤らめていたわ」

「薄々わかっていたけど、あのふたりも大概だな!」

「という具合で、なかなか私の婚約者生活は賑やかなものだったわ」

「いえ、あの、そんな日々を賑やかでまとめてしまうジュラ公爵もどうかと思いますけどぉ」


 やはりこの国の貴族はどこかおかしい、と戦慄してしまう。


「でも、そんな賑やかな生活も続かなかったわ。問題は、次期国王を誰にするかで揉めたのよ」


 ロイグとジュラ公爵が成人すると、どちらが次の王になるかという問題が浮上したという。


「もちろん、王位継承権一位はクライド陛下だったけど、ロイグを担ぐ人間がいたのよ。私の父とかね。他にも、面倒な親族があわよくばと欲を出したけど、その辺りはイグナーツ公爵や父に潰されたわ」

「クライド様にもいろいろあったんですねぇ」

「その頃になると、陛下は寡黙……いいえ、暗くなったわ。ロイグが馬鹿なことをしても、微笑むだけで、悪ノリするようなことはなくなったの――今思えば、先代陛下から魔王レプシーの封印を聞いたのね」

「おそらく、そうでしょう。しかし、先代陛下がクライド様だけに魔王レプシーのことをお伝えしているのなら、それは、その」

「ロイグを王にするつもりはなかった、ということね」


 クライド陛下は、若かりし頃は結界術師として優れており、王国一番の結界術師であるギュンターの師匠でもある。

 推測だが、先代もクライドの結界術に期待したのかもしれない。


「始まりこそ、水面下の出来事だったけどね。次第に、大きく派閥争いに発展していくわ。父もイグナーツ公爵も馬鹿ではないので、内戦を起こすつもりは微塵もなかったのだけど……いつでもどこでも味方の足を引っ張る馬鹿がいるのよ」

「あー」

「まだ子供のあなたに大人の汚い話をするのは申し訳ないけど、そういう馬鹿は早々に粛清されていったわ。そんなことをすれば、頭の中がお花畑のロイグでさえいろいろ気づくでしょうね。結果――ロイグは王位継承権を放棄する旨を記載した手紙を残して、失踪したわ」




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