5「新たな準魔王です」②
「………………」
「………………」
賑やかなパーティーの喧騒の中、サムとカルは沈黙していた。
サムとしては、急に何を言っているんだこの準魔王は、という戸惑いから。
カルは、あまりにもあっけなく断られてしまったという絶望からだった。
しばらくして、いち早く再起動したのはカルのほうだった。
「はぁあああああああ!? なんでっすか! 自分で言うのもなんですけど、私は優良物件っすよ! 準魔王なんで強いですし、部下もいるんですよ! それに、恋愛経験ないですから、未経験っす。彼氏いない歴が年齢っすよ! ほら、男の人って好きでしょう? ないのはお金と余裕だけっす!」
ゴリ押しで自分のことを売り込んでくるカルだったが、サムの答えは決まっていた。
「やーでーすー」
「じゃあ、側室で」
「いやー」
「あ、愛人でいいっすから!」
「やー」
「子供みたいに返事しないでくださいよ! んじゃもう、ペットでいいっす!」
「嫌だって言ってんだろ!」
「ガチギレっすか!?」
適当にあしらっていたサムだったが、いい加減鬱陶しくなったので割りと本気で拒む。
しかし、ぐぬぬ、と唸りながらカルは諦めようとしない。
どれだけ養われたいのだろうか、と疑問だ。
「……自分を安く売るのは嫌なんっすけど、そこまで言うのなら性奴隷に甘んじましょう」
「――――嫌です」
「ちょっと間があったっすよね?」
「ねーよ!」
「いやいや、あったっす! ちょっとむらっとしたっすね! わかります。奥さんたち妊娠中だからあれこれできないっすからね! 立場的に娼館とかも難しそうですし。溜まるのは自然現象っすから、恥ずかしいことじゃないんっすよ」
「よかったら、向こうにいる貴族さんたちをご紹介しようか。きっとマニアックな趣味を持っているだろうから、昼夜可愛がってくれるはずだよ」
「いや、さすがに私にも選ぶ権利はあります」
「真顔!?」
と、一通りお馬鹿なやりとりを終えると、サムが尋ねた。
「んで、目的は?」
「嫌っすねぇ。女の子の好意を疑っちゃうんですか? そういう男の子はモテないっすよ」
「……女の子? いくつだか知らないけど、女の子って年じゃないだろ」
「いや、そこで首を傾げんなよ。準魔王だろうと何百年生きようと、私は女の子なんだよ」
「声低っ! 怖いな!」
ニコニコした表情を消し、背筋が凍るほどの真顔を向けられてしまい、サムが後退りをする。
どこの世界でも、女性に関して年齢にまつわる話は禁句のようだ。
サムは、口を噤んだ。
「おっと、失礼しました。もう、ダメですよ、サムさんったら! 可愛い少女に年齢の話なんて。私だから許してあげますけど、他の人だと火山の火口に落とされちゃいますよっ!」
「どれだけ怒ればそんなことするんだよ。もういいや、なんか疲れた。それで、養ってとかふざけたこと言っていたけど、実際はどんな理由でここにきたの?」
「本当に養ってほしいだけっす! 奥さんにしてほしいっす!」
「……え? 本気でそんな理由で、わざわざスカイ王国にきたの?」
「あのっすねぇ、そんな理由って言いますけど、こっちは切実なんですって! 友達はみんな結婚して、子孫までいるんですよ! でも、私は独身っす! 最近じゃ、結婚しないの、なんて聞かれなくなりましたからね! むしろ、結婚って言葉を出さないように気を使ってくれるんっすよ!」
「い、いい、お友達だね」
「ええ、とても素晴らしい友達っすけど、孫や子孫の話さえ気遣ってされなくなったこっちにしてみたら――悲しすぎるっす」
話を聞いていると切なくなってきた。
自分はありがたいことに、リーゼたちという魅力的な女性と出会い、結ばれたが、もし彼女たちと出会わなかったらカルのように焦っていたのだろうか。
前世のことを思い出そうとするも、結婚や恋人を考える余裕なんてなかったし、彼女ができたことのない身であるため、誰かと一緒に生活するという想像さえできなかった。
よくよく考えると、前世のサムもいずれはカルのように孤独な日々を憂いただろうか。それとも、気ままでいいやと気にしなかったのだろうか。答えは出ない。
ただ、両親に親孝行的なことができていなかったが、姉が早くに結婚し子供も三人いたので両親が孫が見られず寂しいとはならないはずだ。
「えっと、結婚を焦っていることはわかったけど、よく知らない人と結婚なんてできるはずがないので、お断りします」
「……貴族らしくない人っすねぇ。ですが、そう言われるのは想定内でした」
はっきりと断ったが、まだ諦める素振りを見せないカルはどこからか分厚い紙の束を差し出してきた。
「なあに、これ?」
「――私の経歴です! 基本的に全てが書いてありますから、これを読んでくれれば私のことを詳しくなれるっすよ!」
サムは内心膝を折りかけた。
この準魔王。用意周到だし、諦める気がさらさらない。
(いや、しかし、このまま流されるとギュンターみたいになってしまう! ここは毅然と、お断りを……って、もうしてるじゃん! どうすればいいのこれ!?)
誰か助けて、そう願ったサムの元に近づく人影があった。
サムは期待に瞳を輝かせてその人物に目を向け、瞳から光を消した。
「楽しんでいるかな、サムよ?」
スカイ王国国王クライド・アイル・スカイの登場だった。
(絶対話が拗れるぅううううううううううううううううううううう!)
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