閑話「そうだ、日の国にいこう」①
〜〜 注意点:時間軸は無視してください 〜〜
「――お米が食べたい!」
ある日、サムがそんなことを言い出した。
「はぁ。突然ですね」
困惑気味の顔をしたのは、魔王遠藤友也だった。
サムと友也は久しぶりにの休日を満喫するために、軽装で街をぶらついていた。
くるぶしまでのジーンズとサンダルに、白いシャツの袖をめくったサムと、白シャツと黒のスラックス姿の友也は、そろそろ夏が終わるということで冷たいものを食べに行こうということになった。
残念なことにリーゼたちは、女子会を開いていてかまってくれないので、こうして友也と一緒にいるのだ。
ちなみに、いつもだったらついてくる変態は、ちゃっかり女子会の中に混ざっている。宮廷魔法少女なる中年のおっさんも混ざっているので、問題はないだろう。
「ライスはあるんだよ。ピラフとかチャーハンとかさ。だけど、俺の食べたいのはお米! 白米が食べたいの! できれば炊きたてで艶々なやつ!」
「お味噌汁もあるといいですね」
「たくあんもいいよね! 夏になるとさ、自炊するのが面倒で残り物の味噌汁をぶっかけて食べてたんだよね」
「……残り物の味噌汁、ですか」
「あれ? なかった?」
「いえ、僕はいつでも残り物食べてましたから」
「そういう悲しいことを突然言うのやめて!」
相変わらず、友也の日本時代は悲しい。
「俺も含めて、あんたの親とかどうなんだろうな」
「さあ。興味もないですが……僕を殺した奴らは地獄を見ているといいですねぇ」
「そりゃそうだろうけどさ」
集団暴行の果てに亡くなり、こちらの世界にやってきた友也にとって加害者に相応の目に遭って欲しいと思うのは仕方がないことだ。
友人として、同じことを思う。
「それで、お米が食べたいですっけ?」
「うん。でさ」
「あ、展開が読めました」
「日の国に遊びにいこうよ!」
「あのですね、僕の転移はタクシーじゃないんですから」
「わかってるって、友也は金取らないもんな」
「そういう意味で言ったんじゃないんですけどね!」
最近の友也は、出会ったばかりのころち違い感情をよく表に出すようになった。
ギュンターが限界まで強固に張った結界のおかげで、ラッキースケベが半減しているのが理由かもしれない。
とはいえ、相手に接触しないと言うだけで、ラッキーなスケベはよく発動している。
つい先ほども、食パンを加えた女の子と曲がり角でぶつかり、白いショーツを目撃してしまうと言う、一昔前の漫画のような展開を起こしていた。
ギュンターの結界がなければ、少女のショーツの中に顔を突っ込むくらいはしていた可能性がある。
「はぁ。まあいいでしょう。よく考えれば友達とどこかに出かけるなんてことしたことがなかったですしね」
「だから悲しいこと言わないの!」
「そうだ、ついでに薫子さんを誘いましょう。彼女も日本人です。ここで除け者にしたら後が怖いですよ」
「そうだね。んじゃ、まずはエヴァンジェリンの愛の神殿へいこう!」
「相変わらずエヴァンジェリンらしくない名前の神殿ですが、まあいいです。では、――転移」
魔法陣に包まれたサムと友也は、日本からこちらの世界に聖女として召喚された霧島薫子の部屋に転移した。
「――え?」
「――あ」
「――――は?」
しかし、友也と一緒に転移したせいなのか、タイミングが悪すぎた。
きっと暑かったので汗でも拭いていたのだろう。
薫子は、聖女用の純白の修道服を脱いで、タオルで身体を拭いている最中だった。
「ご、ごめんね」
「失礼しました」
謝罪するサムと、友也だが、薫子は拳を握りしめてプルプル震えると、
「事前に連絡するか、部屋の前に転移するくらいの配慮をしなさいよ!」
と、至極真っ当なことを叫んで、サムと友也の顔面に拳をたたき込んだ。
飛び散る鮮血。
「ま、魔王に至ったはずなのに、超痛い」
「……ギュンター君の結界って、空気読むみたいでこういうときに役に立たないんですよね」
鼻を押さえてうずくまる魔王ふたり。
「んで、まさかとは思うけど、乙女の柔肌を覗きにきたんじゃないでしょうね」
「誤解です」
「そうです。僕たちは、ただ、日の国にごはんを食べにいくからお誘いしようかと」
修道服を着た薫子は、首を傾げた。
「日の国? どこそこ?」
「日本の侍的な国です」
「……もしかして、日本食的なものがたべれるの!?」
「ええ、ですから、お誘いに!」
「行く行く! もちろん、覗いたお詫びに奢ってくれるのよね?」
「もちろん、お金持ちの魔王様がお腹いっぱい食べさせてくれるよ!」
「よし! なら、許す!」
「いえ、もう殴られたんですが」
「日本食を食べにいくぞー!」
「おー!」
「……僕、お小遣い制なんですが」
友也の切ない言葉が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。
サム、友也、薫子の日本出身組は日の国に転移した。
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