41「灼熱竜についてです」②




「子供を産んだから? それってメルシーたちのこと?」

「そうだ」


 中腰で股間を押さえているため、真面目な雰囲気にならないが、玉兎は話を進めていく。


「立花は強い竜だった。それこそ、俺なんかを容易く遇らうことができるほど、だ」

「マジかよ」

「なんつーか、俺たちはガキの頃から一緒だったから、まあ、なんだ、いろいろあって結婚した。子供こそできるのは遅かったが、こうして目の前に元気な娘がいる」

「――ふん!」


 メルシーが再び蹴りを入れようとするも、サムが抱えていたので、彼女の足は届かなかった。

 そのことに不満を覚えたメルシーが牙を剥いて唸る。


「……んで、だ。立花の奴は、子供たちに自分の力を与えることにした」

「力を与えた? ってことは」

「そうだ。子供たちに力を分け与え、結果、立花は弱体化した。まあ、それを悪いとは思わねえけど、俺よりも弱くなっちまった立花に戸惑っちまってさ……だから、顔を合わせづらかったんだよ」


 なるほど、とサムは頷いた。同時に納得もできた。

 灼熱竜がサムに敗北したのは、メルシーたちに力を譲渡して弱体化したからだ。また、メルシーの攻撃が硬い玉兎に通じていたのは、灼熱竜の力を持って生まれたからだ。

 強かった灼熱竜が子供を産んだことで弱くなったことで、玉兎が戸惑ったのもわからないでもない。

 しかし、浮気などするのは、論外だ。していい理由になっていない。


「だけどさぁ、あんたは浮気してたし、そもそもメルシーたちが捕われたときに助けに来なかったじゃん」

「あのなぁ! 弱体化したからって、そこらの竜よりは強いんだよ! スカイ王国にサムがいなけりゃ、問題なく娘たちを奪還して、国を焼き払ってたぞ! お前が人間のくせに強いんだよ!」

「……じゃあ、浮気の件は?」

「浮気なんてしてねぇ!」

「本当にぃ?」

「あ、お前! 熱い戦いを繰り広げた俺を信じないのか!?」

「信じられない!」

「嘘だろぉ!」


 サムは灼熱竜が怒髪天をつく姿を見ている。

 誤解であそこまで怒りはしないだろう。


「マジで浮気なんかしてねぇよ! マジマジ! 確かに、若い竜と一緒にいた! 可愛い子だったのも認めよう! 俺に好意を抱いてくれてもいた! だが、俺は立花一筋だ! 娘たちに言えないようなことはしてねえ! 誓ってもいい!」

「……仮に、何もしていないとして、じゃあ、なんで灼熱竜が怒るんだよ?」

「あいつは誤解したんだ。強くなりたいって若い竜が言ったから稽古をつけてやった」

「それだけぇ?」

「人の姿になって、ご飯も食べた。お酒も少々」

「それでぇ?」

「竜の姿のときだが、稽古で汚れたので滝で一緒に水浴びした! だけど、本当にそれだけなんだ! マジで! 変なことしてない!」


 サムは悩む。

 少なくとも玉兎は嘘をついていないだろう。

 そんなに器用な男ではないと、少し接すればわかる。

 ただ、一緒に食事はさておき、酒飲んで、水浴びはどうかなぁと思ってしまう。


「どうでしょうか、女性陣の皆さん? 玉兎は有罪? 無罪?」


 とりあえず、女性たちに意見を求めていた。


「有罪にきまってるじゃねえか!」

「有罪だな」

「有罪です」

「有罪にきまってんだろ!」


 エヴァンジェリン、ゾーイ、ダフネ、ティナが、はっきりと有罪を言い渡した。

 一応、同じ竜の竜王と青樹にも視線を向けてみると、


「……無罪、でいいのではないのか?」

「有罪! 死刑!」


 竜王は困った顔で、無罪と言ってくれたが、青樹は有罪どころか死刑まで言い渡した。


「はい、と言うわけで、残念ですが、有罪です」

「……み、味方がいねぇ! 待ってくれ、男なら、男ならわかってくれるよな? な?」


 すがるように男性陣に視線を向ける玉兎だが、


「有罪ですかね」

「有罪だ!」

「俺も有罪だと思うぜ」

「判断に困るが、有罪としておこう。水浴びはよろしくないのである」


 友也が、レームが、ボーウッド、そしてクライドが有罪を言い渡す。

 玉兎はその場に膝をついてしまった。


「おい、ギュンター? お前はどう思う?」


 なぜか意見を言わなかった変態にサムが尋ねてみると、ギュンターはプルプルと震えたあとに吠えた。


「有罪に決まっているだろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 所帯を持つ男が、妻に誤解されるようなことをしている時点で有罪だぁああああああああああああああ! 僕はね、愛する人を大事にしない男が大嫌いなんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!」

「……なんていうか、クリーを大事にしていないお前に言われてもなぁ」

「それは、それ! これは、これだよ! ほら、僕はサムをとても大事にしているじゃないか!」

「……されてねーよ! まあ、いいや、はい、というわけで、玉兎さん。有罪決定です」

「そんなぁああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 納得がいかないらしく、玉兎が叫ぶ。

 このままでは埒が明かないと思ったサムは、丸投げすることにした。


「じゃあ、言い訳は奥さんにどうぞ!」

「へ?」


 メルシーを抱えたままサムが横に移動すると、背後には灼熱竜がいた。


「――あー、嘘ぉ」


 作りものだとはっきりわかる笑顔を浮かべた灼熱竜は、足音を立てて玉兎に近づくと、おろおろしてる彼の顔面を思い切りぶん殴った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る