34「玉兎と戦います」②
ごっ、と頬骨を砕く音と感触が拳に伝わると同時に、サムの頬にも激痛が走った。
口内を切り、血が溢れて唇から溢れて顎を伝う。
サムと玉兎はお互いの一撃をあえて食らい合うと、数歩よろめくように後退し、顔を上げて――笑った。
「いい一撃じゃねえか、サム。痛い、なんて思ったのは何年ぶりだ。いや、少し前に嫁さんにボッコボッコにされたときは痛かったけど……」
「はははははははっ! 竜王候補様が灼熱竜には弱いみたいだな!」
血を吐き捨てて、地面を蹴った。
サムの蹴りが玉兎の腹部に刺さり、彼の口から血が吐き出される。
血が、サムの顔を濡らし、まるで血化粧のようになる。
だが、玉兎は内臓までダメージを受けながらも、サムの足を掴んで、そのまま持ち上げると、一気に地面へと叩きつけた。
轟音が響き、地面が蜘蛛の巣状に陥没する。
背中に大きな衝撃を受けたサムの肺から空気が漏れ、呼吸が止まるが、構うことなくもう片方の足で玉兎の側頭部を蹴り飛ばす。
常人なら、首が飛んでいきそうな衝撃を受けてなお、玉兎は笑い続けた。
そして、サムの足を掴んだまま、再び持ち上げ、二度、三度、四度、と地面に叩きつけた。
「いいぜ、サム。これだけやって壊れなかったのは久しぶりだ」
地面に何度も叩きつけられ、周辺の地面を穴だらけにした玉兎が満足そうにサムの足を離した。
「痛いんだけど! 何度も何度も雑な攻撃しやがって!」
ひょいと軽やかに地面に着地したサムが、後頭部をさすりながら文句を吐き出した。
人外の力で繰り返し硬い地面に叩きつけられても、サムには大したダメージはなかった。
「くはははははははは! 爵位持ちの魔族でも、俺の力に耐えられないんだけどよぉ。随分と頑丈じゃねえか。魔王に至ってるからか?」
「頑丈さは自前だ。師匠がスパルタだったからね。頑丈にならなかったら、とっくに死んでたよ!」
「いい師匠だ!」
「それは同感だ!」
サムが地面を蹴り、玉兎に肉薄した。
今までよりも一段階早く動いたサムに、竜が目を剥く。
そのわずかな間に、サムの拳が繰り出される。
腹に、胸に、顔に、叩きつけられたお返しだとばかりに、何度もぶつけられた。
「ちょ、たんま」
「するわけねーだろ!」
どうやら単純な速さならサムの方が上らしい。しかし、頑丈さと力は玉兎のほうが上だ。
殺す気でぶん殴っているのに、相手はまだ余裕がありそうだ。
もう数回殴りつけ、最後に顔面に踵を繰り出し、玉兎を吹っ飛ばす。
鼻血を撒き散らして、長身が宙を舞ったがくるりと一回転して地面に着地、できずにたたらを踏んだ。
「あ、足にきた。くっそ痛てぇ!」
「そりゃこっちの台詞だ、殴った手が痛いんだけど!」
顎を抑える玉兎と、拳をぷらぷらさせるサム。
一見すると、ただの喧嘩に見えるが、彼らの一撃一撃が常人であれば大きなダメージとなるだろう。
何度も食らえば、命だって失えるほどだった。
「よし、身体が温まってきたな!」
「そだね。軽いウォーミングアップは終わりかな」
「つかよぉ、俺の記憶が確かなら、てめぇは斬り裂くことに特化したスキルを持っていたはずだよな?」
「それがどうしたの?」
「使うよな?」
にやり、と玉兎が笑う。
「使わせてみろよ」
サムも笑って挑発するように、手招きした。
「はははははははは! ――上等だ!」
玉兎は楽しそうに大笑いしながら、サムに襲いかかる。
移動する速さに大きな変化はない。
しかし、
「おおおおおおおおおおおっ!?」
玉兎の威圧感、圧迫感、空気がすべて重く変化した。
同時に、迫りくる拳も重く、受け止めたサムの腕が軋み、へし折れてしまいそうだ。
このままではまずいと距離を取るために、玉兎の腹部に蹴りを入れるも、まるで大樹のように硬かった。
「単純な力比べは、俺のほうが上だなぁ、サムゥうううううううううううう!」
玉兎の拳が、再び繰り出される。
だが、サムは避けることも防御もせず、小さく嘆息した。
「だね」
自分のほうが肉体的に玉兎よりも弱い。
そう認めて、彼の拳に自分の拳をぶつけ、そのまま勢いよく玉兎の顔面を殴り、彼の肉体を大きく吹っ飛ばした。
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