28「親として、です」①
炎樹が一通りの説明を終え、草原に静寂が訪れた。
サムは、まさか竜王が別世界から転移してきた存在だということに驚きを隠せなかった。
だが、サム以上に驚きを隠せていないのは、青牙と青樹だった。
「私たちは、母上の子ではないのか?」
震える声を出す青牙に、炎樹が近寄り肩に手を置く。
「そうではない。お前たちは等しく私の子だ」
「嘘だ!」
しかし、青牙は母の手を振り払った。
「……青牙」
「エヴァンジェリンだけが母上から生まれた。力も上だ! ああそうだ、そうとも! わかっている! 魔王に至ったかどうかわからないが、エヴァンジェリンは私たちよりも強いだろう! だが、里から出て好き勝手やっているやつに竜王など務まらない! 私は、私と青樹は母のために!」
「そのエヴァンジェリンが里にいづらくしたのはお前らじゃ無いか」
「……人間め!」
口を挟んだサムに、青牙が怒りの形相を向けて地面を蹴る。サムに肉薄すると、鋭い鉤爪を奮った。
あえてサムは避けなかった。
身体に魔力を纏うだけで、攻撃を受け入れた。
しかし、青牙の爪はサムを傷つけることができなかった。
つまり、それだけの実力差があるのだ。
「あんたたちがエヴァンジェリンを邪竜だなんだと迫害して、里にいたくないと思わせたのに、里から出て好き勝手やってるっていうのは違うだろ」
「黙れ、人間! 人間に、竜の何がわかる!」
「わからないし、わかりたくないね」
「もういい! やめろ!」
サムと青牙が睨み合っていると、炎樹が大きな声を上げた。
「なぜわからない、青牙。お前も、エヴァンジェリンも、我が子だ」
「母上、そうではありません! 私たちは勝手に生まれた存在です! だが、エヴァンジェリンは母に生まれるよう望まれていた! だから、母上はエヴァンジェリンばかりを気にかけるのです!」
「……青牙」
「エヴァンジェリン、あんたはさぞ私たちが滑稽でしょうね」
青樹がエヴァンジェリンを見て、自嘲するような顔をした。
そんな姉に、エヴァンジェリンは感情も声も出すことなく、視線だけを向ける。
「長老たちから次期竜王候補だと育てられてきたのに、蓋を開けてみたら竜王になれない! そもそもお母様から望まれた子供でさえなかったのよ! 笑いなさいよ!」
「…………」
無言を貫くエヴァンジェリンに、青樹のこめかみが引きつった。
「喋る価値さえないっていうの!? ふざけんな!」
激昂した青樹がエヴァンジェリンに掴みかかろうとしたが、静観していたゾーイによって即座に取り押さえられ、地面に倒れる。
「離しなさいよっ!」
「お前の気持ちはわからないではないが、八つ当たりはやめろ。お前の立場を悪くする」
「……くそっ、くそっ、くそっ!」
(これどうやって収拾つけるの?)
青牙、青樹、エヴァンジェリンは自らの出自を知ったことで動揺している。それはサムたちも同じだが、事実を受け入れるには時間が必要だと思う。
だが、青牙と青樹がこの場を引くとは思えない。
サムが悩んでいると、
「面倒ですね。いっそ、青牙も青樹も殺してしまいましょうか」
「ばっかっ、お前な! それは解決にならないだろ!」
物騒なことを言う友也に、エヴァンジェリンが吠える。
すると、クライドがなにを思ったのか前に進み出た。
青牙はサムが、青樹はゾーイが抑えているので、万が一はないが、どうするのか、と視線が集まる。
(まさか、またビンビンとか言い出さないよね? もしビンビン始めたら友也に強制転移してもらうからね!)
サムがクライドの言動に警戒していると、彼は竜王炎樹を真っ直ぐ見つめた。
「竜王炎樹よ」
「なんだ、クライド・アイル・スカイ」
「一国の王として、子を持つ親としてそなたに言いたいことがある」
「聞こう」
クライドが大きく息を吸うと、
「――大馬鹿者が!」
竜王炎樹を叱り飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます