13「帰国です」①
「おのれ、エヴァンジェリンめ! 母上の前で私に恥をかかせたな!」
「冤罪! 冤罪すぎるだろ! つーか、こっちに八つ当たりするんじゃねーよ!」
青牙は、母にビンビンの意味を説明しようとして、できなかった。
誰もが「そりゃできねーだろ」と思ったに違いない。
ただ、その後が悪かった。
辱めを受けたと勘違いした青牙は、クライドではなく、エヴァンジェリンに突っ掛かったのだ。
これには、揉めないように静観していたエヴァンジェリンも整った眉を潜めることとなる。
「兄さん、いいじゃん。とりあえず、やっちゃおうよ」
「そうだな。母に破廉恥な言動を取った国王、私に恥をかかせたエヴァンジェリン、両者とも万死に値する」
ゾーイと因縁があり、エヴァンジェリンのことも快く思っていない青樹が焚きつけるせいで、青牙が爪を伸ばし、唸りを上げた。
口が裂け、鋭い牙を剥き出ししに、青い鱗を浮かび上がらせるその姿は、まだ本性の竜になっていないが、半竜半人といった感じだった。
「あのさ、兄貴、姉貴、よしなって」
「気安く声をかけるな! 貴様のような生まれながらに呪われた邪竜に同じ血が流れていることさえおぞましい!」
「――っ」
「そもそも邪竜の分際で魔王を名乗るなんて、何様よ? 魔王に知り合いがいるからって、自分まで強くなったと思ったのならみっともない!」
「違う、私は!」
「黙れ! 母上は様子を見に来るだけとおっしゃったが、もう我慢できん! 貴様とそこの変態だけは必ず殺してやる!」
どうもエヴァンジェリンは、兄と姉に強く出られないようだ。
なにかしらの事情があるのか、それとも兄妹だからか。
そんな彼女に対し、青樹と青牙はエヴァンジェリンを妹と思っていないような言動だ。
これには、クライドたちが眉を潜めた。
「ゾーイ! あんたは私がぐちゃぐちゃにしてやるから! あんたに顔を傷つけられたせいで、まだ傷が残っているのよ!」
青樹の顔には、うっすらと傷のような線が斜めに入っていた。
化粧で隠しているようだが、隠し切れていない。
「言っておくが、ここで暴れるようなら――もっと惨めな顔にしてやろう」
「殺してやる!」
怒りが沸点に達した青樹が地面を蹴ると同時に、青牙も続いた。
青樹はゾーイに向かい、青牙はエヴァンジェリンに向かい攻撃をしかけようとした。
ふたりの動きは早く、鋭い。
本性ではない竜の肉体でなくとも、十分すぎるほど強者の部類だった。
青樹が抜き手を槍のように放ち、青牙が鋭い爪を振り下ろした。
――が、
「はい、そこまで」
急に現れた魔法陣の中から聞き覚えのある声とともに、ひとりの少年が飛び出してきて、竜の攻撃を軽々と掴んだ。
続いて現れたブロンド髪の青年と少女が、憤怒の表情を浮かべて握りしめた拳を青牙と青樹の顔面にたたき込んだ。
少年が手を離すと、竜たちは吹き飛び、地面を転がっていく。
「――妹に手をあげるなど、貴様にはお兄ちゃんの資格がない!」
「お兄ちゃん力ゼロだな! あと、お前もお姉ちゃん失格だ!」
「君たちねぇ……いや、気持ちはわかるけどさ」
少年――サミュエル・シャイトは、吸血鬼であり準魔王でもあるダニエルズ兄弟を率いてスカイ王国に帰還した。
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