7「戻ってきました」②
「さて、サム。兄妹の絆を深め合うのも大切ですが」
「助けてよ!」
「まず、無事に魔王に至れたことを喜びましょう。見たところ、寿命の問題はクリアしていますね。君は魔王としてまだ未熟で未完成ですが、器は素晴らしい。いずれレプシーを超える魔王になるでしょう」
「友也もありがとう。お前がいなければ、俺は魔王に至れなかったよ」
「気にしないでください。同郷の人間が死んでしまうのは寂しいですからね」
友也の言葉を聞き、終わりが訪れかけていた自分に時間ができたことを確信し、安堵した。
少なくともこれで、家族を置いてひとりで逝くことはない。
逆に、家族に置いて行かれてしまう問題が生まれたが、それは今考える問題ではないと思う。
「ところで――神には会いましたか?」
「いや、世界の意思とかいうのにはあったけど」
「そっちでしたか。可能性は低かったので期待はしていませんでしたが、なるほど」
「……やっぱり、なにか企んでいると思っていたけど、お前は俺に神と会わせたかったんだな?」
「その通りです」
友也は否定しなかった。
彼の目的はわかっている。
かつてこの世界に転移した際に会った神ともう一度会うことだ。
(神様に会って目的と遂げる――っていうとかっこいいんだけど、ラッキースケベを取り除きたいってことなんだよなぁ。いや、気持ちはわかるし、協力したいけどさ)
「魔王に至るにあたって神様と会う可能性があるの?」
「少なくともヴィヴィアンは会っています」
「友也や他の魔王は?」
「僕の場合は、世界から声が降ってきました。魔王に至ったと。エヴァンジェリンとダグラスも同様です。レプシーは、サムと同じく世界の意思に会ったそうです」
「魔王によって違うのか」
「そうらしいです。僕も、魔王のすべてを知っているわけではないんです。ヴィヴィアンは僕以上になにかを知っているようですが、教えるつもりはないみたいですし、僕も無理やり聞き出すつもりがないというか、無理やりなんて彼女にはできませんからね」
友也は肩をすくめた。
おそらく、サムが魔王に至るにあたり、魔王ヴィヴィアン・クラクストンズのように神と邂逅する可能性を試したのだろう。
もちろん、彼が最初に言ったように、肉体が力に耐えきれず朽ち果てようとしていたサムを助けようとしてくれた善意も本物だと疑っていない。
だが、同時に、自分の目的である神とコンタクトを取る可能性も探ったのだろう。
「悪かったな。俺も神様に会いさえすれば、お前のその体質をどうにかしてやってほしいと頼むんだけど。でもさ、前もって言ってくれないかな? 神様と会わなかったとしても、まさか世界の意思と会うなんて思わなかったよ」
「それは失礼しました。ですが、確信がなかったもので」
「友也。あんたには借りができた。大きな借りだ。俺はあんたの目的に協力する。助けが必要ならなんでも言ってくれ」
もともとサムは友也の助けになりたかった。
とはいえ、なにができるかと問われれば、できることはないに等しい。
だが、魔王に至ったことで、友也のためになにかしてあげられることがあれば尽力したい。
最愛の家族たちと別れずに済んだのは、友也の協力があったからこそだ。
その恩に報いたい。
もちろん、ギュンターとダニエルズ兄弟にも、だが。
「サム! 年頃の少年がそんな簡単に、なんでも、などと言ってはいけないよ! きっとこの変態魔王は君に凌辱の限りを尽くして、お嫁にいけない身体にされてしまう!」
「いや、お前じゃないんだからさ」
「そんなことしませんよ! というか、君はいい加減に僕を変態というのをやめてもらっていいですかね! 僕のどこが変態だというのですか!」
「――僕の股間をあれだけまさぐっておいて、白々しい! 慰謝料を請求したいくらいだよ!」
「こっちの台詞です! 好き好んであなたのような変態に触るわけないでしょう!」
なにかと相性の悪い変態と魔王が睨み合う。
「俺からすればどちらも変態なんだがな」
「だよね! 変態と変態魔王様だ!」
うんうん、と頷きながらダニエルズ兄弟がどちらも変態だと言うと、さすがに聞き逃せなかったのか、変態と魔王が叫んだ。
「度し難いブラコンの君たちに言われたくないのだがね!」
「君たちにだけは変態扱いされたくありません!」
「俺たちのような美しい兄弟愛を持つ汚れなき存在によくもそんなことを! そこの変態はもちろん、魔王様とて許せん!」
「兄弟愛なめんな!」
変態と魔王がブラコンたちと睨み合う。
サムは、大きく嘆息すると、
「いや、俺からすればお前ら全員変態だよ!」
自覚しろと言わんばかりに叫ぶのだった。
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