6「戻ってきました」①




「ぎゃはははははははははははは! なにそれ、ギュンター!? なんで、お前、そんなギャグ漫画みたいに砂浜にぶっ刺さってんの!?」


 世界の意思と戦いを終えたサムは、自然と現実に戻ってきていた。

 いろいろ確認したり、友也と話をすることがあるのだが、目の前の飛び込んできたギュンターの愉快な姿につい爆笑してしまう。


「君がやったんですけどねぇ」


 控えめなツッコミを入れる友也だが、彼も笑っている。


「まじでか!? どうしてそんな――おもしろそうなことを素の状態でやらなかったんだ!」

「んむーむーむぅうううううううううううううううう!」


 サムが頭を抱えて叫ぶと、声が届いたのか抗議するように足をじたばたさせるギュンターに近づき、足を掴んで勢いよく引っこ抜いた。


「ぶはっ! まったく、酷い目に遭ったよ! まさかサムが家庭内暴力系夫に変貌し、僕に陵辱の限りを尽くそうとするなんて……わかっているさ。この歪な行動も僕への愛ゆえなんだろう? 妻は黙って耐えるさ。いつか君が素直になれるその日までね」

「……お前も本当にブレないなぁ」

「なによりもママから受ける辱めに比べたら、サムの暴力なんて快感でしかないさ!」

「お前の存在がもう魔王だよ」

「よしてくれ。いくら僕が愛に満ち溢れた存在だからとはいえ、愛の魔王だなんて」

「言ってねーよ」


 ボロボロになった白いスーツから砂を落としながら、通常稼働のギュンターにサムが笑う。

 癪ではあるが、いつもと変わらないギュンターに安堵し、戻ってきたのだと実感する。

 夢で見た、好青年ギュンターは違和感しかなかった。


「友也もそうだけど、ギュンターにも迷惑かけたようだな。悪かった」

「――ふっ。サム、君は言葉を間違えているよ」

「え? ああ、そうだな。――ありがとう」


 サムの感謝の言葉に、ギュンターは笑顔で応じ、肩をぽん、と叩いた。


「あんたたちもありがとうな。って、大丈夫か?」


 倒れたまま起き上がる気配のないダニエルズ兄弟に駆け寄り、手を差し伸べる。


「――その気配」

「うん。間違いない」


 顔を上げた、ダニエルズ兄妹がなにかに気づいたようだ。


「魔王に至ったな」

「レプシー兄さんの力もちゃんと継承したな」

「――おかげさまで。みんなのおかげだよ。ありがとう」


 サムの感謝の言葉を受け、レームとティナが手を握った。

 ――離さないとばかりに、ぎゅぅぅぅ、と。


「あれ?」

「サミュエル・シャイト! 今日からお前はお兄ちゃんだ!」

「よろしくな、お兄ちゃん!」

「しまったぁあああああああ! 忘れてたぁあああああああああ!」

「ふふふふふふっ! 感じる、感じるぞ! サムお兄ちゃんの身体の中からレプシー兄さんの力の鼓動を!」

「ひとりで二度美味しいな!」


 サムは、一瞬、自分の中でレプシーに会ったことを伝えようと思ったが、さらにお兄ちゃん認定されると考えたので、飲み込んだ。

 いずれふたりが落ち着いたら話をしようと思う。


(何はともあれ、これで――魔王に至ったんだけど……これからどうすればいいんだ?)


 目的は達成したものの、今後のプランがまるでないサムは、はて、と首を傾げたのだった。



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